Merpay & Mercoin Tech Fest 2023 は、事業との関わりから技術への興味を深め、プロダクトやサービスを支えるエンジニアリングを知ることができるお祭りで、2023年8月22日(火)からの3日間、開催しました。セッションでは、事業を支える組織・技術・課題などへの試行錯誤やアプローチを紹介していきました。
この記事は、「How to Unleash Fintech」の書き起こしです。あわせて、「【書き起こし】Keynote – Shunya Kimura【Merpay & Mercoin Tech Fest 2023】」をご一読ください。
@kimuras:「How to Unleash Fintech」というタイトルで、パネルディスカッションを進めます。
@keigow:メルペイVP of Engineeringの@keigowと申します。私は、2016年にメルカリグループに入った後に、2018年のメルペイ立ち上げのタイミングから3年、メルペイに所属してました。2年ほどグループ会社のソウゾウという会社で新規事業の立ち上げに取り組んでいたんですけれども、この4月にメルペイに戻りました。本日は過去からのメルペイの取り組みについても触れられればと思っていて、とても楽しみです。よろしくお願いします。
@nu2:同じくVP of Engineeringの@nu2と申します。今年の5月に入社して、ちょうどオンボーディング期間を終えたばかりです。フレッシュな視点を意識して今回お話できればと思っています。
@kimuras:まず導入ですが、2019年からメルペイのFintechサービスがリリースされて、スマート払いやスマートマネー、クレジットカードサービス、ビットコインなど土台を作ることができました。利用者は約1500万人です。
特にこの1年では、メルカードやビットコインなど、大きなリリースもありました。今回はそのFintech事業にとっても、大きな技術的な成長を報告できるので、ぜひ皆さんに楽しんでいただきたいですし、参考にしていただければなと思っています。
今回は、これまで作ってきたFintechの土台を活かして、今後さらにこの価値の他のサービスも広げていきたいという気持ちでセッションを開催しています。
Fintechサービスの成長に欠かせないのは、攻めだけでなく守りの姿勢を大切にすること。便利なUIにするほどセキュリティのリスクが高まってしまうので、同時に守りも重視しなければいけません。
メルペイ創立から担当されている@keigowさんにお聞きしたいんですけども、これはFoundationプラットフォーム開発に重点を置いてきたというお話をしましたが、@keigowさんとしてはどのような考えがあったのかを聞きたいです。
@keigow:当初から完璧にできていたわけではなく、できていた部分と今でも苦労している部分があるのかなと思っております。組織の良い部分は、マイクロサービスアーキテクチャで開発を進めたこと。また、決済のコアとなるマイクロサービスを独立したチームで開発を進めることは、立ち上げ当初から意識していました。
メルペイ立ち上げから5年間、エンジニアリング組織には大小様々な変化はありましたが、その点の根本の部分は変わっていないと思います。
現状のメルペイのエンジニアリング組織は、主にProduct、Foundation、Enablingという三つの領域にわかれています。Productエンジニアリングは、新しいProductの機能開発や改善、お客さま体験の向上に直接つながる開発を行います。
続いて、先ほどプラットフォームとして表現されていたFoundation。Fintech領域で特に大事な部分、決済や残高の管理、与信の管理のマイクロサービスというところは、基本的に1ヶ所に閉じて、専任のチームをアサインして、その中で中長期を意識した開発を進めていくということは、創業当初から続けています。
最後に、Enablingチーム。これには、バックエンドやクライアントのアーキテクト、SRE、データプラットフォームの方が所属しています。横断的な技術課題の解決、生産性の向上を担っています。
こうして組織ごとに役割をフォーカスすることで、「攻め」と「守り」を意識できました。
@kimuras:初期の段階から長期的な視点も考えてきたということですね。なるべく改善しながら進めてきた、あるいは組織をそのような形にしてきたということで、うまくできた点かなと思います。@nu2さんの入社したばかりのフレッシュな視点では、どのように見えますか?
@nu2:メルカリはメルペイが誕生する前から、今までずっと成長曲線を描いてきたのは、主にお客さまとお客さまが出品される品物のエンゲージメントの点と、売上金の換金という二つのプラットフォームが、Productマーケットにフィットした結果だと思います。
関係企業がグループのFintech領域を担うメルペイになり、これまで今まであまり世の中になかった決済体験みたいなのにつながって、それを提供しつつメルコインも事業を開始して、まさに価値の循環を体現していると感じていました。
機能としてはiDの決済から始り、QRコードやメルカード、即時決済、さらに清算することですぐに与信枠が回復する技術をこのタイムスパンで成し遂げてきたことは、とてつもない開発スピードだと感じました。
同時にお客さまの利用が増えていくことで、トランザクションが増量し、それに伴ってシステムのスケーラビリティがどう担保されているのかは、入社前から興味関心がありました。
@kimuras:実際に入社してみて、いかがですか?
@nu2:何年も先まで見据えたアーキテクチャで、現状スケーラビリティを担保されている部分もあれば、クラウド技術に依存しているので、その辺は今後ずっと拡張していくと、コストやレスポンスに支障が出るのかもしれないということは、現場の方たちとお話しているので、そこを知恵を出し合いながら改善を重ねていきたいと思っています。
@kimuras:続いて、Fintech領域のエンジニアリング領域の面白さについてです。堅牢なシステムを作り、セキュリティを守らなければならない上でも、なめらかな社会を実現していくことは、難しくもありとても面白いことだと思います。
おふたりの、仕事のやりがいやエンジニアリングの面白さについても、ぜひ教えてください。
@keigow:一番は、お客さまに新しいサービスを提供できることです。
メルペイ自体はユニークなサービスなのかなと思っています。メルカリやメルカリShopsといった、マーケットプレイスのサービスと一体となって提供され、メルカリグループの新しいミッションが「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というところで、物を売ることで得たお金を支払いに使える、そのお金を利用してビットコインを買えるといったサービスは、これまでの世の中にないものだと思っています。そのような、新しいものを提供することにワクワクしています。
@nu2:私もこれまでのキャリア的にBtoC次にBtoBtoCを経験して、今回はCtoCに携わっています。お客さまと直接向き合う点が大きいと思っています。
社会の一部をソフトウェアとして実装していく点が大きいですね。私自身、メルカリグループのミッションに非常に共感したことが入社の動機になりました。どのような行動を起こせば、なめらかなアクションをとったり、組織に対してフィクションを起こさずに済むかを常に意識しています。
また、我々のサービスは、これからもお客さまに使っていただきたいです。ビッグスケールするときに、想定しなかった技術的な課題が絶対出てくると思っています。国内外を視野に入れたビックスケールサービスを実現することに対して、非常にやりがいを感じています。
@kimuras:ありがとうございます。続いて、今回のMerpay & Mercoin Tech Fest 2023のセッションや見どころを説明してください。
@keigow:「Merpay Engineering Career Talk」というパネルディスカッションでエンジニアリングマネージャーとEngineering Headの3人で、キャリアについて話す予定です。
@nu2:「Merpay & MercoinにおけるLLM活用の取り組み」と題し、発表します。私も入社後すぐに支援する形で参加したLLM技術を用いた社内ハッカソンのような取り組みがありまして、そちらで最も評価されたProductのプレゼンテーションも披露します。
今後生成AIの技術は誰もが注目している技術だと思っていますので、どのような議論が展開されるのか私も非常に楽しみです。
@kimuras:続いて、見どころセッションについてはいかがでしょうか。
@keigow:一つは、「Merpay iOSのGroundUp Appへの移行」。iOSリアーキテクチャのお話しで、かなり大規模なプロジェクトなので、面白い話が聞けると思います。
もう一つは、「メルコイン決済基盤の実践話」。もともとメルペイの経験も踏まえて、メルコインの決済基盤がどのように作られているのかを詳細に話してくれると聞いているので、楽しみです。
【書き起こし】Merpay iOSのGroundUP Appへの移行 – kenmaz【Merpay & Mercoin Tech Fest 2023】
【書き起こし】メルコイン決済基盤の実践話 – Junwei Liang【Merpay & Mercoin Tech Fest 2023】
@nu2:私は「メルペイのあと払いとスマートマネーを支える返済基盤マイクロサービスの進化」と「メルコイン決済マイクロサービスのトランザクション管理を支える技術」の2つです。どちらもマイクロサービスについてのセッションです。
なぜこの2つに注目しているかといいますと、私が入社の決め手の一つでもあるのですが、金融の取引領域にマイクロサービスアーキテクチャを採用してるのもすごくチャレンジングなことだと思っています。
なぜかというと、Network latencyなどの課題をどうクリアするかが大きいポイントだなと思っていまして、成し遂げたい世界観を構築するための技術的な挑戦を他のセッションでもあるんですけれども、マイクロサービスにフォーカスしてこの二つを取り上げました。
【書き起こし】メルペイのあと払いとスマートマネーを支える返済基盤マイクロサービスの進化 – Cui Peichong【Merpay & Mercoin Tech Fest 2023】
【書き起こし】メルコイン決済マイクロサービスのトランザクション管理を支える技術 – Shota Suzuki【Merpay & Mercoin Tech Fest 2023】
@kimuras:個人的には、メルコインが社内でも最新のアーキテクチャを使っているということもあって、僕も楽しいと思ってますし、今回紹介できることをとても嬉しく思っております。
@kimiuras:続いて、メルペイ・メルコインの領域あるいはメルカリでもいいんですけども、どんな世界を実現していきたいか、あるいは今後どんなチャレンジをしたら面白いかなどについて、意見をお聞きできたらなと思います。
世の中を便利にするための土台はできてきましたが、これらをいろんなサービスで今後活用していくことによって、より可能性が広がっていくという考え方もありますし、世界に挑戦することも面白いかなと思います。
@keigow:Product的に今のメルペイをものすごく単純化すると、財布にお金が入ってきて、出ていく。加えてビットコインを購入し、資産運用の要素が組み合わさっていると思います。
直近の出金や決済は、iD決済から始まり、コード決済、メルカードなど、かなり整ってきたと感じています。一方で入金や運用についてはもっといろいろな可能性があると思います。物の売買だけでない入金の手段や、より手軽な資産運用も含めて、増やせる財布というか、そこにお金を入れておくことで価値が出てくるという世界観を、メルペイで実現できると面白いと思います。
エンジニアリングという観点では、高い可用性やセキュリティが求められる中で、いかに高いスピード感を持って開発していくかが非常に重要だと思います。守りはするけれど、保守的にはならない、「守りのために攻める」ということを意識したいです。
@kimuras:「保守的にはならない」ということについて、特に気をつけていかないといけないという危機感を覚えることはありますか?
@keigow:守りに入ること自体は簡単ではあって、現状維持、あるいはより枯れた技術を利用すること自体は別に間違ってないんですけれども、リスクに見合ったリターンがある技術は当然あると思うので、そこは意識してアンテナを張りたいです。
リスクだけがあるのは全然良くないんですけれども、新しいことを取り入れることは意識していくことが必要な部分かなと思ってます。
@kimuras:新しいところでいうと、マネージドサービスやOSSなどを意識されていますか?
@keigow:それもそうですし、LLMをどう取り入れるかは、サービスの提供という観点では面白い部分かなと思います。かなり応用の幅がありそうです。
@nu2:私はメルカリグループが掲げる価値の循環というミッションを実現するため、さまざまな価値を循環させるための基盤・経済圏にお客さまが参加したいと思える状態を作っていかなきゃいけないと思っています。
先ほどお話にあった即時決済や即時回復は今まで社会になかったものでした。我々はそれを利用していますので、どれだけ便利なものなのかを体現できると思います。まだまだお客さまに届いていないとも思うので、便利な世の中を実現して、メルカリグループの経済圏にもっと多くのお客さまに参加して欲しいです。
お客さまが増えることで、セキュリティやアベイラビリティ、レスポンシビリティに非常に高いハードルが生まれると思いますが、対応していきたいです。
@kimuras:「保守的になりすぎてはいけない」というお話がありましたが、そうならないために挑戦していきたいことや考え方はありますでしょうか?
@nu2:今のクラウド技術を元にしてサービスを展開していますが、クラウド技術提供者が用意するミドルウェアを待つのではなくて、我々が新しいソフトウェア自身をミドルウェアとして構築・開発し、我々がオープンソースとして逆に提供するぐらいの勢いが必要かなと思っています。
@kimuras:「増やせる財布」「資産管理」という観点で実現してみたいビジョンはありますか?
@nu2:財布の中で何を使うかというお客さま自身の情報を預からせていただくので、そこから今すでに実現している信用情報以外のことにも利用できるのではないかと思います。
ただ、あくまでお客さまの価値の循環のために利用することがデータとしてすごく重要だと思っています。
@kimuras:データの種類や量は本当に増えてきていて、データ管理のアーキテクチャも常に見直していますが、今後はデータの活用をさらに進化させていかないといけないフェーズになったと感じています。
資産管理やロイヤルティプログラムなど、今後データサイエンスも伴うようなデータ利活用が、メルペイ・メルコインの成長の一つの軸なんじゃないかなと僕も思っています。
最後に、現状の課題とチャレンジということで、やりたいこと挑戦したいこと、改善したいことがあれば、ひとこといただきたいです。
@keigow:足元の課題はたくさんあるかなと思ってまして、VPとして一番責任あるところで言うと、技術的な改善やリファクタリングをProductの優先順位として高めて推進する体制を作ることは強く意識しています。
以前よりは、議論を進めながら、ロードマップにエンジニアリングの部分を載せていくことができるようになってきているので、ここの部分は引き続き強化していきたいです。
@nu2:我々はFintechサービスをお客さまに提供する際に「安心・安全」というのを掲げているんですけれども、我々が掲げる以上、我々のシステムとしても安心・安全が求められます。
ただそれに対して一定のコストがかかるので、コストとのバランスを見ながら、いかに最適なコストで安心・安全を提供するかは課題だと思います。
@kimuras:ありがとうございます。以上でこのセッションを終わりにします。ありがとうございました。