キャリアの明文化から3年間、どんな変化が? Engineering Ladderの活用と改善 

こんにちは、メルカリ Engineering Office チームの@yuki.tです。

私たちのチームでは、しなやかで強固なエンジニアリング組織を作ることをミッションに、様々な活動を行なっています。私はその中でも、主にエンジニア評価のサポートに携わっています。

メルカリでは、約3年前にEngineernig Ladderとして、メルカリのエンジニアに期待される行動を成長段階ごとに明文化したものを作成しました。Engineering Ladderは主にエンジニアの評価や目標設定に使われています。
この記事では、Engineering Ladderが作成されてから3年間でどのように活用・改善され、どのような影響があったかをまとめます。

評価・等級制度の作成や、エンジニアの組織作りに携わっている方にぜひ読んでいただきたいです。

Engineering Ladderとは

一般的にキャリアラダー等と呼ばれている、職務に必要なスキルを明確にするための仕組みです。等級制度と紐付け、各等級ごとに求められるスキルや行動を定義し使用されていることが多いです。
エンジニア向けには海外の事例が多く、Spotify、Medium、CircleCI、Google、Dropbox社などで利用されており、外部公開している企業もあります。
最近では国内でもキャリアラダーを公開する企業が増えてきました。

Engineering Ladder

メルカリでは、3つのバリュー(Go Bold, All for One, Be a Pro)をベースにし、期待される行動を明文化したものを「Engineernig Ladder」と呼んでいます。
各エンジニアが持つ個性やスキルを尊重しながら、互いの強みを活かす組織を目指すために作られました。

Engineering Ladderは、評価や目標設定、キャリア設計で利用されており、今自分がどの段階にいて、次の段階に進むために必要な行動、スキルは何か、ということを確認するための指標となっています。

どのように使われているか

メンバー自身の自己評価や、マネージャーからのfeedbackでEngineering Ladderを参照して使用しています。
会社全体で使われている等級制度(グレード定義)もありますが、すべての職種に使用できるように抽象度が高い内容のため、エンジニアの仕事に当てはめにくい場合があります。それに対して、Engineering Ladderはエンジニアの仕事に合致するように具体化した基準として位置づけられています。

Ladderと全社グレード、3つのバリューとの関係性

Engineering Ladderのこれまでの改善と影響

1年目:Engineering Ladderの使用をスタート

Engineering Ladderの作成後、まず評価での使用を開始しました。
開始後は「該当期間の成果を具体的に書けるようになった」や「評価のすり合わせができるようになり、納得感が上がった」という意見があり、ポジティブな影響がありました。

他にも、組織で期待されているエンジニア像を共有・発信するために、採用面接用のEngineering Ladderをベースにした質問項目も作られました。

メルカリでEngineering Ladderを作ることになったきっかけ、作成の過程、効果については、こちらの記事で詳しく説明されています。

参考記事:会社の文化を言語化すると何が起こるのか。Engineering Ladderの作成プロセスとその結果

Continious feedbackの推進

Engineering Ladderの作成後、評価を助けるツールとして、Continuous feedbackという仕組みが推進されました。
Continuous feedbackは、評価時期だけでなく、1ヶ月等のより短いスパンでマネージャーとメンバーで認識をすり合わせる仕組みです。このときにEngineering Ladderを使って行動を振り返ることを推奨しています。

この仕組みを導入したところ、メンバーの評価への満足度が向上しました。

Continuous feedbackの効果を確認するためのSurvey結果
Continuous feedbackの効果

Continuous feedbackについてはこちらの記事で詳しく書かれています。
参考記事:評価の満足度を劇的にあげた秘訣。Continuous Feedbackのすすめ

これらのようにポジティブな影響が見られた一方で、Engineering Ladderの内容にはまだまだ下記のような課題がありました。

  • 書かれている内容にわかりにくい部分がある
  • 全社のバリューやグレード定義と完全に一致していないようにみえる

特に全社のグレード定義との整合性については、Engineering Ladderが作られた後に全社の定義が刷新されたという経緯があり、整合性が不完全な状況でした。

2年目:会社全体のグレード定義と合わせるためアップデート

前述の通り、作成時点のEngineering Ladderは会社全体のグレード定義の項目との整合性が不完全だったため、この年に構成と項目を大きく変更しました。

変更前:メルカリの3つのバリューを元にエンジニアリング組織で作成した項目
旧Ladder項目

変更のためには、まず会社全体のグレード定義の項目を、エンジニア向けにさらに分解してあらたな項目(Key behaviors)を作成しました。

変更後:全社グレードから作成されたKey behaviors
新Ladder項目

Key behaviorsを作成した理由は、抽象度の高いバリューを細分化してエンジニア向けに具体化することと、今後組織の求めるエンジニア像がアップデートされた際にKey behaviorsごとの差し替え・変更を可能とし、メンテナンス性を高めることでした。

Key behaviorsの作成後は、それまでのEngineering Ladderの文章を、関連するKey behaviorsに当てはめて再構成し、抽象度や記載内容のわかりにくい部分の修正など微調整を加えました。

このときのアップデートでは、すでに完成された文章がある状態から作成しましたが、もしゼロからキャリアラダーを作成する場合も、最初に項目を作成したうえで成長度合い(等級制度のグレード等)に応じて文章を作っていくことができます。

そして完成されたEngineering Ladderが、現在公開されている内容です。
(このあとも部分的に更新されているため細かい文言は当時から変更されています。)

バージョンアップ前のEngineering Ladder(社内公開用)
※3つのバリューをベースに作られたものの、関係性は示されていませんでした
旧Ladder全体

バージョンアップ後のEngineering Ladder(社内公開用)
※内容の改善と併せて、3つのバリューとの関係性をわかりやすくして公開しました
現Ladder全体

このアップデート前は、会社全体のグレード定義とEngineering Ladderの整合性が不完全だったため、エンジニアリング組織は独自の評価記入フォーマットを使う必要がありました。それが改善されたことで、エンジニアリング組織も会社全体と同じ評価記入フォーマットが使えるようになりました。

3年目:使用する組織が増え、幅広く影響力を持つツールに

Engineering Ladderは、作成直後はメルカリのエンジニアリング組織だけで使用開始しましたが、年を追うごとにグループ内で使用する組織が増え、現在はカンパニーを跨いでグループ内のエンジニア組織で広く使用されています。

社内での閲覧数の推移
Ladder閲覧数推移

またメルカリではEngineering Ladderを社内のGitHubで管理しており、Issueの起票だけでなく、各メンバーが直接Pull Requestを出して、コントリビューションできるようにしています。
Engineering Ladderの内容に疑問や、改善点を見つけた場合に、それらをメンバー自身が解決できるという仕組みです。Pull Requestの内容はEngineering Ladderのプロジェクトメンバーがレビューしたうえで半年に一度Releaseされます。

公開後のコントリビューション数をみると、公開直後はCommit数が多いですが、改善を繰り返すうちにCommit数が減っています。
(2022年12月と2023年6月に大きな山がありますが、これは半年に一度行われている、プロジェクトメンバーによる定期アップデートのCommitです)

コントリビューション数の推移
コントリビューション数推移

各組織からのFeedback

各組織からは、主に下記のようなFeedbackが得られています。
組織全体で評価の認識を揃えることと、納得感の向上に繋がっています。

  • 評価される行動が言語化されているので、メンバーを評価しやすくなった
  • 個人ではなく行動の評価であることが評価時にメンバーへ伝えやすい
  • メンバーへの説明だけでなく、マネージャー同士の認識も揃えることができる
  • メンバーとマネージャーで共通認識を持つことで、評価の納得感が高くなった
  • メンバーの行動をEngineering Ladderに当てはめて次のグレードとのギャップを埋めることで、目標設定に活用できる

今後について

今後は、Engineering Ladderにある、Engineering Manager Skillsの改善をしつつ、エンジニアリング組織のVisionとの連携をより強固にしていき、組織の方向性を伝えるツールとしてより役立てることを検討しています。これまでは主にメンバーやマネージャーからのFeedbackや、GituHub上のIssue・Pull requestからの改善が中心だったところを、組織の変化に応じたメッセージを伝える場としても使っていくという意図です。
またEngineering Ladderを重要視しすぎると、特に入社したばかりのメンバーはEngineering Ladderの内容が全てだと考えてしまう恐れがあるため、Engineering Ladderを使うことで根底にあるメルカリのカルチャーを各メンバーが理解して体現できることも目指していきたいと考えています。

社外への影響

最後に社外への影響についてです。メルカリで公開しているEngineering LadderはCreative Commons Zero(CC0)を適用しているため、他社様が自社でキャリアラダーを作成する際に参考にしていただくこともあります。

他社様におけるキャリアラダーの導入事例

最近では、メルカリのEngineering Ladderを参考に株式会社LegalOn Technologies様が自社の評価基準を作成されたとご連絡をいただきました。

新しい基準の作成後は、評価がしやすくなったり、会社としての方向性が定まったことによるポジティブな影響が得られたそうです。
詳細については、株式会社LegalOn Technologies様のブログでご紹介されています。

まとめ

この記事では、メルカリのEngineering Ladderについて、社内での活用方法や、作成後にどんな改善が行われ、どのような影響があったかをまとめました。

Engineering Ladderは公開後も会社の状況に応じて内容や使い方の更新を続けることで、より使いやすく改善されています。そして特に評価の納得感の向上に貢献しています。
現在ではメルカリのグループ会社や、他社様からも参照していただいています。

この記事で紹介したEngineering Ladder以外にも、メルカリでの開発者体験やカルチャーにご興味がある方は、ぜひキャリアサイトをご覧ください。

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