【書き起こし】メルペイエンジニアリングのこれまでとこれから – nozaq、1000ch、hidek【Merpay Tech Fest 2022】

Merpay Tech Fest 2022 は、事業との関わりから技術への興味を深め、プロダクトやサービスを支えるエンジニアリングを知ることができるお祭りで、2022年8月23日(火)からの3日間、開催しました。セッションでは、事業を支える組織・技術・課題などへの試行錯誤やアプローチを紹介していきました。
この記事は、「メルペイエンジニアリングのこれまでとこれから」の書き起こしです。

@nozaq:Merpay Tech Fest 2022をご覧いただきありがとうございます。メルペイでCTOを担当している野澤と申します。このセッションでは、私とVP of Engineeringを担当する2名で、メルペイのエンジニアリング組織としてのこれまでの歩み、そしてこれからのチャレンジについてお話をさせていただきます。

まずは、スピーカーの紹介です。改めまして、メルペイでCTOを担当している野澤です。前職はQRコード決済サービスを提供するスタートアップにおりまして、そのままメルペイでも引き続き決済サービスに関わっています。

次に、プロダクト開発領域でVP of Engineeringを担当している泉水さん(@1000ch)です。

@1000ch:みなさんこんにちは。メルペイのプロダクト組織のVP of Engineeringを担当している泉水と申します。私も前職からWebの業界にいました。創業期に近いメルペイに入って組織の立ち上げから携わり、最近ではプロダクト組織のVPoEとして開発組織のマネジメントを担当しております。今日はよろしくお願いします。

@nozaq:最後にプラットフォーム領域のVP of Engineeringを担当している木村さん(@hidek)です。

@hidek:みなさんこんにちは。プラットフォーム領域のVP of Engineeringをしている木村です。よろしくお願いします。2018年の5月にメルペイに入社し、そこからリリースを経て一貫してこの領域のVP of Engineeringをしています。前職はDeNAで同じく技術執行役員としてエンジニアリング組織の組成や基盤周りを中心に監修をしていました。本日はよろしくお願いいたします。

@nozaq:本日はこの3名で、セッションを進めていきます。最初に私から簡単にメルペイのこれまでをプレゼンテーションさせていただき、後半3名でのパネルディスカッションをします。

メルペイこれまでの歩み

@nozaq:まず最初に、メルペイはメルカリグループの中で金融サービスを提供してる会社です。もしかするとメルペイがどんなサービスなのかというのを、あまりご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単にサービスのご紹介をさせていただきます。

私たちのミッションは、「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というものです。メルカリは不用品の売買を簡単にすることで、物の循環をなめらかにするフリマアプリです。メルペイでは同じように、新しい信用の形を生み出すことで、お金の循環をもっとなめらかにしていくことを目指しています。

具体的にどんなプロダクトを提供しているかというと、大きく分けて以下のとおりです。

「決済」「与信」「ふえるお財布」。この3つの領域でそれぞれプロダクトの開発提供を行っております。

1つ目の「決済」。今回ご覧いただいてるみなさんも、日常の中で目にする機会が多いと思います。メルカリで物が売れたときに、売上金がアカウントに入ってきます。この売上金を使ったり、メルペイと直接普段お使いの銀行口座を接続していただいて残高をチャージしたりすると、その残高を使ってオンラインやオフラインの加盟店でお買い物ができる機能です。

お買い物といっても、インターフェースがいろいろあります。例えばNFCを使った非接触決済をするiD決済もありますし、QRコードやバーコードを使ったコード決済もあります。これら2つはオフラインの実店舗でお買い物するときのものです。

一方で、ECサイトなどオンラインでお買い物するときに、アカウントに紐づいたクレジットカード番号を使ってお買い物ができるバーチャルカードの発行や、メルカリのアカウントでお買い物ができるネット決済もあります。

2つ目の領域が「与信」です。もしかしたら聞き慣れない言葉かもしれませんね。例えば「この瞬間にはお金がちょっと足りない。しかし、何か買い物をした代金をあと払いにし、後日メルカリで何か物が売れたときにその売上金で精算できる。」与信とは、そんなサービスを指します。決済が今あるお金を使って何かやりとりをするものであるのに対し、与信は、将来使えるであろうお金を今使える状態に広げていくことを目指しています。

具体的には、翌月払いや、定額払いといったあと払いサービス。最近は「Buy Now Pay Later」、BNPLとも言いますね。もしくは、買い物と直接紐づけず、アプリから直接残高にお金を借りる融資サービスも提供しています。

最後の領域が「増えるお財布」です。これはいわゆる資産運用的な領域ですね。メルペイの中でも決済や与信と比べるとまだまだ発展途上です。しかし、現在でも外部のサービスと連携をして残高を運用できる機能を提供していますし、今後は暗号資産を取り扱うグループ会社のメルコインと連携し、暗号資産の購入などのサービスを提供することを見込んでいます。

この3領域のサービスローンチから3年半。これまで、それぞれの領域でさまざまな機能を提供してきました。ローンチのタイミングではiD決済やQRコード決済といった、いわゆる決済領域からスタートし、その後翌月払いや定額払いといった与信領域に当たるメルペイスマート払いを増やしたり、Funds社との提携により増えるお財布の領域のサービス提供したりと、総合的な金融サービスを提供する会社に成長してきているかなと思います。

メルペイでは、各領域のそれぞれのサービス開発をしています。しかし、単独で決済、単独で与信、もしくは、単独でメルペイというサービスを確立していくことが僕らの最終目標ではありません。

先ほどあと払いの例でもお話をしたとおり、翌月末払いでお買い物をして、メルカリで不用品を売り、その売上金で精算をする。メルカリ上でのやりとりが増えたことによって、メルカリの利用実績が次の「信用」に繋がり、その方が今度あと払いで使える金額がより増えていく。そういった、メルカリグループ全体で循環していくような金融サービス体験を僕らは目指しています。

この循環を作っていくうえでとても重要なのは、この「信用」というキーワードです。メルカリを利用することで、その利用実績からお客さま独自の「信用」が創造され、より多くのサービスをメルペイが提供できることを目指しています。そのため、アプリやバックエンドサービスに加えて、信用情報を分析するためのデータ基盤や機械学習基盤への投資もしてきました。

ここまでがメルペイの紹介です。次に、ローンチから3年半が経った今、エンジニアリング部門として僕らの技術的なチャレンジがどう変化してきたかをお話したいなと思います。

1つ目のキーワードが「立ち上げ期から成長期へ」です。特に去年から今年にかけて、この変化が大きかったと思います。

その要素として、一つはサービスが非常に多様化したことがあげられます。先ほど触れたとおり、当初は決済機能を提供することを中心としていました。そこにあと払いのサービスや、融資サービスが増えていき、メルペイはそれぞれのプロダクトが相互に連携するようなサービスになってきました。

私たちは、このマイクロサービスのアーキテクチャを基本とし、複数のプロダクトラインをそれぞれマイクロサービスに分割して開発・管理をしてます。あと払いや融資や決済、それぞれの金融サービスが複雑なビジネス要件だったり、もしくは異なる法律要件というのを持っています。これらの法律要件やビジネス要件が混ぜ合わさってしまうと、開発としても非常にやりにくい。しっかりと責務を分割していくことで、開発のシンプル化、スピード化ができることに、マイクロサービス化のメリットがあります。

一方で、サービスの多様化に伴いマイクロサービスの数も増えてきて、全体を把握することの難しさも見えてきました。

上記のスライドは左側が決済領域、右側があと払い領域となっています。例えば、決済領域のあるMicroservice Aに対して変更を加えたとしても、それが直接的にはあと払い領域のMicroservice Dには影響を与えるようには見えません。しかし、間接的なマイクロサービスの依存性を辿っていくと、見えないところで実はMicroservice Aの変更がDに影響を与えていた、ということが起きえます。

メルペイではマイクロサービスを安定して運用するために、各マイクロサービスにオーナーシップを持っているエンジニアリングチームがいます。そのため、マイクロサービスとマイクロサービスの間に落ちるようなものや、広く全体を捉えたとき、どこまで影響が広がっていくのか正しく迅速に見積もるために工夫が必要だと実感していますね。

また、企画や開発が終わった後に例えばテストをするとき、これらのマイクロサービスがそれぞれ並行して異なるプロジェクトを開発をしている中で、どうやって環境を揃えて、どうやって全体の影響を捉えられるようなテストをしていくのかも工夫が必要な部分です。もしくは、そのテストが終わってサービスをローンチした後に、運用段階でこれらのマイクロサービス間のデータの不整合が発生したら、どう迅速に検知して修復していくか、そういったトライが増えてきたように思います。

メルペイとして、ここにどう取り組んできたか。例えば、いろんなマイクロサービスがある中で、マイクロサービスの稼働状況などのオブザーバビリティの話とは別に、それぞれのマイクロサービスがどんなもので、どんな情報を扱っていて、どんな依存関係を持っているのか。そういったマイクロサービスのメタデータを情報集約して、閲覧できるダッシュボードを内製で作ったり、シナリオテストを行うためのフレームワークを内製し、テストの自動化を社内的に推進したり、また、クリティカルなマイクロサービスのデータがずれていないか、リコンサイルする(注: 複数のデータ間にずれが無いか突合確認すること)仕組みをより高度化したり、といったことに取り組んできました。

今回のTech Festでも、こういったトピックそれぞれに対して詳細なセッションがあるので、ぜひご覧いただければと思います。

「成長期へ」のもう一つの側面です。サービスの種類が増えていったということに加えて、規模が大きくなったことがあります。規模の拡大に合わせて、従来であればより新しくより便利な機能をお客さまに提供していくのがプロダクト開発の最も重要なフォーカスでした。それに加えて、安心安全にそれらを利用していただくための投資を行う社会的な責任も高まってきました。

例えばクレジットカードやコード決済といった決済手段の不正利用や、フィッシング攻撃によるIDやパスワードの盗用。このような不正の発生は、最近は報道も含めていろんなところで取り上げられてると思います。メルペイとしても、より安全にサービスをご利用いただくための取り組みを行ってきました。

例えばメルカリやメルペイをお使いいただくときに、eKYCを利用した本人確認があります。スマホで免許証を撮って本人確認するとか、そういったものですね。それをより簡単にできるよう、マイナンバーカードのICチップを使った本人確認ができる機能をリリースしたり、もしくはクレジットカード決済をするときに、3Dセキュア2.0という新しい仕組みを使い、お客さまの認証負荷を下げながら、より安全に利用できる機能を提供したりしています。

直接的な機能の提供に加え、技術基盤としての不正検知など、怪しい取引を検知する仕組みがあります。こういった仕組みをより安定的に運用するためのインフラ移行や、機械学習のパイプラインの改善、もしくは不正検知の新しい機械学習モデルを作るため、グラフ理論を用いたモデルの構築も行ってきました。

さて、ここまで成長期に向かってサービスの多様化や、規模の拡大にどう取り組んできたかをお話しました。もう1個のキーワードは、メルカリから独立して決済・与信というプロダクトを作って立ち上げてきた状態から、徐々にメルカリグループ全体の金融サービスインフラとしての役割が大きくなってきたことです。

例えば、約2年前はメルカリグループの中でどういったWebサービスを提供していたかというと、メルカリのフリマとメルペイのフィンテック事業の2つが主でしたが、今ではメルカリグループの中の事業・カンパニーはスライドのように増えています。メルカリShopsを提供している「ソウゾウ」という会社や、物流サービスを提供している「メルロジ」、暗号資産事業を提供している「メルコイン」。こういったグループカンパニーが増えてきました。

これらの事業は、それぞれが独立して発展していくわけではありません。先程もお話ししたとおり、メルペイでも決済や与信といった独立したサービスを提供したいわけではなく、メルカリ全体のいろいろな事業・サービスの中に、金融サービスが自然に組み込まれていくことを目指しています。

グループの事業の幅が広がっていることは、数ある事業と金融サービスを掛け合わせ、新しいサービスを提供できる大きなチャンスです。一方で、UX的にうまく繋げるにはどうしたらいいのかを考えなければいけない課題もあります。

ここ1、2年のメルペイ立ち上げ当初は、まずは独立した決済サービスを立ち上げるところにフォーカスしていました。今は、メルカリと共にどう体験を改善していけるか、サービスデザインの面や技術的な設計面の両面で考える取り組みが増えてきています。

例えば、メルカリやメルペイの中には売上金という概念があります。この売上金が増えた・減った、ポイントが増えた・減った、または決済を使ったなど、さまざまな機能の履歴があります。これらをどういう形で統合すると、お客さまにとってより自然で、全体を通して使いやすい体験になるのかを整理するプロジェクトが走っています。

また、より技術的な部分で言いますと、メルカリ・メルペイは独立したカンパニーで、独立した開発をしています。しかし、全体のアプリとしては1つ、「メルカリアプリ」に集約されています。その中にメルペイというタブがある形です。1つのシステムの中で、お互いの影響を少なくしながら並行して開発をしていけるか。一方で、基盤となるような部分……例えば、フレームワークや新しい技術の導入といったタイミングにおいては、お互いの良さを活かし合う。そんな設計・検討にも多くの工夫がありました。

最初にメルペイが立ち上がったときは、メルペイを作るため、スライドの赤く表示してる部分……認証・認可、資金移動、CRM、本人確認、加盟店管理といったコア機能をどのようにプラットフォームとして進化させていくかを考えながら進めてきました。徐々にグループの事業が増えていくにしたがって、他のグループの事業においてもこれらの機能が重要になってきたのです。

例えば、加盟店管理という機能。最初はメルペイだけが加盟店さまとの関係を持っていました。しかし、今ではメルカリShopsというサービスがあり、その中にも別途加盟店さまがいらっしゃいます。そのため、グループ全体での加盟店という概念・データをどう統合的に管理していくのか、「加盟店管理」という領域を考える必要が出てきたのです。このように、グループ全体に目線を広げて基盤を作っていくことが、ここ最近のメルペイにおいての新しいチャレンジでした。

今まではグループの基盤というと、例えば、Kubernetesを使ったマイクロサービスをどう構築するかみたいな、本当にいわゆるインフラ的なレイヤーの話が多かったところから、もう一個上のビジネスロジックの部分にも基盤の部分がある、このいろんな事業を提供する上でグループの基盤になるそういったマイクロサービス群というのをどう管理していくか、もしくはどのようにスケーラブルに設計していくかみたいなところが新しいチャレンジの一つかなと思います。

まとめです。メルペイの最近の大きな変化として、立ち上げから徐々に成長期に向かっていくにつれて、仕組みの強化が必要になりました。その具体的な取り組みとして、例えばマイクロサービスが多様化していく中で、依存性の可視化やテスタビリティの向上など、複雑性と戦うための仕組み作りをしてきました。また、規模が大きくなってくることに対し、より安心安全にサービスをご利用いただく必要がありました。セキュリティ機能や不正検知システムの高度化が大きな注力領域となっています。

さらに、メルカリグループ全体を支える金融サービスになるためには、基盤強化をする必要があります。これはお客さまの体験を統合していくやり方もありますが、細かいシステムの機能として、メルカリグループ全体の事業を支えられる基盤をどうしたら作れるのか、どうしたら設計できるのか、技術的にも組織的にも戦略を立てる必要もあります。これらが直近の大きな課題であり、ここ1、2年、僕らが注力して取り組んできた部分です。

これらのチャレンジは、完全に終わったわけではありません。これから先、まだまだやるべきことはたくさんあります。例えばより成長期に向かっていくということで言うと、マイクロサービスの情報を集約する一方で、それらを使ってよりサービスの企画を安全に進めていくためのプロセスの整備が必要です。

また、その金融サービスには多くのバックオフィス業務があります。お客さまの対応、加盟店さまの対応、不正が起きたときの対応などの業務を、テクノロジーを使ってどう効率化していけるか。そこも大きなチャレンジ領域として残っています。

「メルカリグループ全体を支える金融サービス」への取り組みは、基盤部分への投資が必要です。ここはある程度の期間、継続的な投資が必要となってくるので、引き続き組織的に取り組んでいく予定です。

また、最近はメルカリグループの中にインドの開発拠点ができました。こういった海外開発拠点を利用し、より組織やサービス開発の規模を拡大していきたいですね。一方で、国内拠点だけではなく海外拠点と連携していくためには、組織として英語化を推進していくとか、違う文化の方々が仕事をしやすいカルチャーを作っていく必要もあります。ダイバーシティ&インクルージョンの部分ですね。多様性を受け入れていくための組織の開発も、大きなチャレンジ領域の一つだと思っています。

パネルディスカッション

@nozaq:ここまで私から、今までメルペイがどう歩んできたか、これから先はどういうチャレンジが待っているかをご紹介させていただきました。ここからはVPoEの2人も入れて、トピックを深掘りしていこうと思います。

@1000ch・@hidek:よろしくお願いします。

@nozaq:本日は、2つのテーマでお話したいと思います。

まずは、過去を振り返ったときにメルペイとしてユニークだなと思ったチャレンジ。3人それぞれ、メルペイとしてどんなところがユニークだと感じたか、事例を振り返っていきたいです。

最初に僕から。先程、グループのカンパニーがすごく増えた話をしました。去年ソウゾウ社ができて、メルコイン社ができて。当たり前ですが、新しい会社をつくるときは、いろいろやることがあります。立ち上げるための人材の確保だったり、リソースの確保だったり。いろいろなことをしなければいけない中で、グループ全体から「ソウゾウ立ち上げるぞ!」「メルコイン立ち上げるぞ!」と新しいことをやりたい人たちが集まって、ものすごい勢いで事業が立ち上がっていくのを目にしました。このスピード感や一致団結力は、当時メルペイに入ったばかりの僕からすると「なんかやばいとこに来てしまったな」という感覚がありましたね……(笑)。

当時から木村さんは、既にVPoEとして活動されていましたよね。振り返って、あのような取り組みはカルチャーによるものなのか、思い出があれば教えていただいてもいいですか。

@hidek:おっしゃるとおり、何かの立ち上げみたいなところはアクセルを踏んでやりがちなグループ・会社だと思います。“やる”となったら人を集めて立ち上げるのは、よくありますね。

実は、メルペイ自体もそうやって始まった会社なんです。メルペイは今のソウゾウではなく、旧ソウゾウと言われるソウゾウ社が母体となっているのですが、メルカリからも人を募って立ち上げているんです。その例を見ても、“やる”となったら一気にアクセルを踏むのはよくあることだとわかりますね。

@nozaq:そういった取り組みの結果、新しく立ち上げた違う事業をやったり、共通の……例えば、僕らのバリューである「Go Bold、All for One、Be a Pro」は有名ですが、バリューは共有しながら細かくいろんなカンパニーのカルチャーがあって、いろんな集落・村があったり。そんな状態になるのが、グループとしてみると面白いですよね。

では、木村さんがユニークだと思った取り組みはどんなものがありますか?

@hidek:今の話の続きでいうと、実はメルペイの立ち上げの間に、野澤さんがいらっしゃったOrigami社とのM&Aがありました。その過程で、組織が一時的にとても大きくなった時期があるんです。

そのときに、なるべく組織をフラットにしたい……上下関係をレイヤーを増やすのではなくて、なるべくフラットにしたいという思いがありました。そのときにいわゆるVPoE3人体制というのを敷いて、これはユニークだったんじゃないかなと思っています。

あともう一つは、先程の野澤さんの話で言うところのまさに立ち上げ期の話で、スピード感を持ってガンガンを進めていくと、どうしても技術的負債というのを背負ってしまうシーンがありました。しかし、負債を放置しておくのではなく“返す”ことを会社全体の目標とし、会社OKRとしてリソースを投入したのです。僕らはテックカンパニーを標榜しているので、それらしいユニークな取り組みだったんじゃないかなと思っています。

この2つが、前職から比べると面白い取り組みだったと思いますね。

@nozaq:エンジニアリング担当の VPが3人は、僕も入ったときにびっくりしました。なんというか贅沢の極みだな、と。ただ、その後のスピード感ある取り組みを思い返してみると、3人だからこそタイムリーにできたことがたくさんありましたね。3人それぞれ得意分野が全然違う中で、役割分担しながら技術組織を見ることができて。

泉水さんは、3人体制のVPoEをどう感じていますか。

@1000ch:やっぱり3人はユニークですよね。他の会社だと、CTOとVPoEが対になってるイメージ。しかし、組織拡大のために、レイヤーを増やすのではなく、担当VPを増やして組織のスケールに追従していく、という部分には僕も共感しているので、3人体制はいいなと思いますね。

@nozaq:ありがとうございます。では、泉水さんがユニークだと思った取り組みはどんなものがありますか?

@1000ch:木村さんが技術負債の話をしたので、その話に関連して……大規模アプリケーションの書き直しは、常にどんな会社でも必要だと思います。メルペイも会社として発足する前から、メルカリのコードベースは続いてるので、当然領域を問わず負債が蓄積しています。そのため、メルカリだけでなくメルペイを含むグループ全体で取り組む必要があったのは印象的でした。

バックエンドで言うと、2018年頃からマイクロサービスマイグレーションが始まっていたりメルカリWebの書き直しも2020年初頭から始まり、去年の夏に完了していたり。同じようにアプリの書き直しも現在行っています。最近Betaとしてリリースできるようになったので、ようやく公開できる話なのですが、この書き換えもWebと同時期に始まっていました。

Webはそうでもないのですが、アプリですとメルカリの機能だけでなく、メルペイの機能も多く含んでいます。アプリではメルカリとメルペイでコードベースがわかれていて、書き換えの対象はメルカリ側だけでした。しかし、コードベース上で連動してる部分はたくさんあります。メルカリ側のコードベースが書き換わってる間も、メルペイはリリースを継続したい、つまりビジネスを止めたくありません。そのためにはメルペイのソースコードを、既存のメルカリのコードベースと、書き換わってる最中のメルカリのコードベースの両方で動かしていくアプローチを取る必要がありました。

聞いただけで大変だと感じ取っていただける人もいると思います。ビジネスとテクノロジーの両面の状況を加味して、新旧両方のコードベースで動かせるようなアプローチを考えたり、カンパニーを跨いで意思決定に及んだり、かなりチャレンジングなプロジェクトでした。メルカリ・メルペイとして意思決定を分割している、メルカリグループらしい出来事だったと思いますね。僕にとっては一番印象的な出来事です。

@nozaq:メルカリアプリとメルペイ、これからはメルカリShopsやメルコインも増えてくると思います。共通するところは共通しつつも、全部をごちゃまぜにせず、並列してプロジェクトを進められるようにする。そこに対しての技術的なコミットメントも含めて、メルカリグループの執念はすごいなと思いますね。

ありがとうございます。では、次のテーマに行きましょう。

@nozaq:こちらは先の話も含めて、今お2人が直面している課題と、それに向けて今後どういう取り組みをされる予定か伺いたく思っています。まずは、泉水さんいかがでしょうか?

@1000ch:一言で言うと、事業に合わせて組織を整理するのか、技術に合わせて組織を整理するのかが、今直面している課題ですね。

メルペイは立ち上がりに際して、金融ドメインに属するマイクロサービス群を立ち上げてきました。傾向として、立ち上げの初期は機能とマイクロサービスの関係が成立します。しかし、事業規模の拡大や複雑化に応じて、機能対マイクロサービスの関係を維持するのが難しくなってきます。必然的に、メルペイ単体での価値提供ではなく、マーケットプレイスやフィンテックでどのように融合した体験を提供していくか検討し、それを実現していくための組織構造に落とし込むのかが難しいですね。

最近では、メルカリ・メルペイといったその事業体に依存しないマイクロサービスやツール群をファウンデーションとしてグループとしてまとめていく動きもあります。それは、いろんなところで同じ機能を再実装しないための経営の最適化だと思っているのですが、理想はグループ内の一ヶ所にまとめられればいいですよね。一方で、メルペイの中のマイクロサービスには、メルペイとして事業認可を受けている性質のシステムがあり、メルペイが引き続きオーナーシップを持たなければいけないものもあります。しかし、全体最適のためにはバーチャルにはくっつけておきたいこともあるので、オーナーシップの設計を含め、組織設計にどう落とし込んでいくかは工夫が必要だと思っています。みなさんと一緒に議論して考えていきたいですね。

@nozaq:ありがとうございます。メルペイは本当に会社ができたタイミングから、マイクロサービスアーキテクチャを標榜してたというのもあって、組織がマイクロサービスと連動しています。徹底されているカルチャーだからこそ、より基盤化していくというのは、僕らからすると新しいパラダイムシフトかもしれません。そこの取り組みはまだまだ工夫がありそうですね。一方で、やっぱり単純にシステム設計をどうするかだけでなくて、組織をデザインするとそこにシステムがついてくるような、もしくはそのシステムを設計すると組織がついてくるような連動性を意識していけるのは、やはり規模なりの面白さがあり、チャレンジングなポイントかなと思いますね。

では、木村さんはいかがでしょうか?

@hidek:野澤さんの話にもありましたが、メルカリグループ全体としてやることが増えているし、会社組織も増えている中で、逆サイド……先程の泉水さんの話の逆目線からの課題ですが、グループ全体での技術方針の合意が難しくなってきていると思っています。

例えば、メルペイはマイクロサービスネイティブで作られたシステムだったり、メルカリにはいまだにモノリスを意図して残していたり、また、ソウゾウだとサーバーレスにチャレンジしていたり。その事業のフェーズやプロダクトの性質で技術を選んでいければいいと思います。一方で、いわゆる生産性や品質の均一化という視点からは、やはり共通のものをある程度作っていく必要はあると思いますね。ここはファウンデーションという名前で進めていますが、今後の課題のひとつだと感じていますね。

@nozaq:ありがとうございます。では、ここでパネルディスカッションは終わりにします。

先程まとめスライドで紹介したチャレンジ群は、Tech Festのセッションの中で詳しく紹介していきますので、ぜひチェックしていただけると嬉しいです。

ご視聴いただきありがとうございました。

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