メルカリハロで QA Engineering manageをしている @____rina____です。
本記事では、プロジェクトチームで実施したオフサイトについて、スクラムマスターとしてワークショップデザインを担当した経験を共有します。
リモートワークが主流となった今、対面でのオフサイトをどのように設計し、初回参加者への配慮をどのように実践したかについて詳しく解説します。
この記事から読者が学べること:
- 長期プロジェクトの効果的なふりかえり手法(タイムラインふりかえり)
- AIを活用したワークショップデザインの実践例
- 初回参加者への配慮と心理的安全性の確保方法
- 5グラウンドルールを活用した質の高い議論の実現方法
- 対面でのチームビルディングの重要性と効果
- リモートワーク環境でのコミュニケーション技術的課題と解決策
- アナログ手法による対面ワークショップの効果と重要性
執筆者自身の学び:
スクラムマスターとしてワークショップデザインを担当した経験を通じて、参加者の心理的安全性を確保することの重要性を改めて実感しました。特に、初回参加者への丁寧な説明や視覚的な資料の活用、段階的な進行が、ワークショップの成功に直結することを学びました。また、AIを活用した効率的なワークショップ設計の可能性も実感でき、人間ならではの創造性や配慮と組み合わせることで、より効果的なワークショップを設計できることを確認しました。
開催概要
今回実施したのは、メルカリハロで事業者向けサービスを開始するにあたり、事業者から手数料を徴収する仕組みを構築するプロジェクトチーム向けのオフサイトです。このチームのメンバーが、福岡市内の会場に集まり、5時間にわたってオフサイトを開催しました。普段はリモートで業務を進めているメンバーですが、この日は全国からメンバーが一堂に会し、対面ならではの熱量と一体感を感じながら、プロジェクトのこれまでとこれからについてじっくりと語り合う貴重な時間となりました。
参加者はPM、エンジニア、EM、デザイナー、QAから10名を超えるメンバーが参加し、初回参加者も含めて多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まりました。
背景・目的
今回のオフサイトを企画した背景には、長期にわたる手数料プロジェクトをふりかえり、今後の改善やチームの連携強化を図りたいという思いがありました。リモートワークが主流となった今、日々のコミュニケーションはどうしてもテキストやオンライン会議に偏りがちです。だからこそ、対面で集まり、普段は話せないような深い議論や、カジュアルな交流を通じて、チームとしての結束力を高めることが不可欠だと考えました。
手数料プロジェクトでは私がスクラムマスターを務めており、今回のオフサイトはワークショップデザインから全体の進行まで、一貫して設計・運営を担当しました。特に意識したのは、初回参加者が安心して参加できる環境を整えることでした。
ワークショップデザインの工夫
AIを活用したアジェンダ作成とアイスブレイク設計
今回のオフサイトの準備段階では、AIを積極的に活用しました。まず、ワークショップ全体のアジェンダ作成において、AIに手数料プロジェクトの特性や参加者の構成、目的などを入力し、最適な進行スケジュールの提案を受けました。AIが提案した時間配分やセッション構成をベースに、実際の参加者数や会場の制約を考慮して調整を加えることで、効率的で効果的なアジェンダを作成できました。
特に印象的だったのは、アイスブレイク用のクイズ作成です。AIに福岡の文化や目にする予定の建築物に関する問題を生成してもらい、参加者の滞在をもっと楽しくする内容にしました。
初回参加者への配慮:丁寧なチェックインと説明
ワークショップデザインにおいて最も重要視したのは、初めてワークショップに参加するメンバーへの配慮でした。参加者の中には、付箋を使ったワークショップや、グループディスカッションに不慣れな方もいました。そのため、各セッションの開始時には必ず丁寧な説明を行い、参加者が迷わないよう配慮しました。
各セッションでの具体的な配慮
タイムラインふりかえりでは、具体的な手順を視覚的な資料とともに説明しました。グルーピング作業では、抽象的な指示ではなく具体的な例を示すことで、参加者が迷わずに作業を進められるよう工夫しました。
各セッションの開始時には必ず目的、手順、期待する成果物を明確に伝え、質問しやすい雰囲気を作ることで、参加者全員が安心してワークショップに参加できる環境を整えました。
当日の流れ
オフサイトは、参加者全員が最大限に集中し、活発な議論ができるよう、綿密にデザインされたプログラムで進行しました。
アイスブレイクの意味と目的の説明
ワークショップの冒頭では、まず「アイスブレイクとは何か」「なぜアイスブレイクが必要なのか」について、参加者全員に丁寧に説明しました。この配慮を特に重視したのは、私自身が過去にワークショップに参加した際、突然ゲームが始まって「これをする意味がよくわからない」と混乱した経験があったからです。
アイスブレイクが単なる場を和ませるための時間ではなく、その後の議論の質を左右する重要な要素であることを理解してもらうため、以下の4つの目的を明確に伝えました:
- 参加者同士の緊張をほぐす: 初対面や久しぶりの対面で生じるぎこちなさを解消し、心理的安全性を高める
- 場の雰囲気を明るくする: ポジティブな空気を作り出し、その後の議論が活発になる土台を築く
- 親近感を高める: 共通の体験を通じて、お互いへの理解を深め、チームとしての繋がりを強化する
- 集中力を高める: 軽いアクティビティを通じて、参加者の意識をオフサイトのテーマへと自然に引き込む
この説明により、参加者はアイスブレイクの重要性を理解し、積極的に参加することができました。この事前の配慮が、次のアイスブレイクセッションでの自然な参加につながりました。
アイスブレイク:緊張をほぐし、一体感を育む時間
アイスブレイクとして、事前にAIを活用して作成した福岡にちなんだクイズからスタートしました。アイスブレイクの目的は、参加者同士の緊張をほぐし、場の雰囲気を明るくし、親近感を高めることです。お互いの意外な一面を知るような質問を投げかけることで、笑い声が絶えない和やかな雰囲気を作り出すことができました。
特に、ワークショップ形式に不慣れなメンバーからも自然な笑い声が聞こえ、緊張していた表情が和らいでいく様子が印象的でした。このアイスブレイクを通じて、参加者全員が同じ土俵に立ち、次のセッションに向かう準備が整いました。
5グラウンドルールの共有
アイスブレイクの後、ワークショップを円滑に進めるための「5グラウンドルール」を参加者全員で共有しました。このルールは、今年私が参加した社外イベントで講師の方が使用していたもので、運営者として参加した私がその効果を実感し、今回のオフサイトで採用することにしました。
- ほめる
- 聴く
- 受けとめる
- 待つ
- 愉しむ
実際に体験者として参加したことで、これらのルールが参加者の心理的安全性を高め、質の高い議論を生み出す効果を実感できました。今回のオフサイトでも、参加者全員が同じ価値観でワークショップに臨むことができました。
タイムラインによるプロジェクトのふりかえり
アイスブレイクで場が温まり、「5グラウンドルール」で参加者全員の認識がそろったところで、メインコンテンツである「タイムラインを使ったプロジェクトのふりかえり」へと移りました。手数料プロジェクトは長期にわたるため、過去の出来事を時系列で整理し、共通認識を持つことが非常に重要だと考えました。
ステップ1:できごとと感じたことを書く
まず、ロール上の模造紙にプロジェクトのタイムラインを引き、各メンバーが印象に残っているできごとや感じたことを付箋に書き出し、該当する時期に貼り付けていきました。このプロセスでは、まず事実としての「できごと」を書き出し、それに対して「感じたこと」を複数書き出すという明確な手順を示しました。
事前準備として、これまでの議事録をNotebookLMに読み込み、音声出力サマリーを作成しました。このサマリーを参加者全員で聞くことで、プロジェクトの全体像を共通認識として持つことができ、より具体的で深い議論につながりました。
付箋には色分けを採用し、できごとは黄色、感じたことはその他の色で分類することで、視覚的に情報を整理しやすくしました。アナログな手法だからこそ、参加者が直接手を動かして情報を整理でき、デジタルでは得られない物理的な体験を通じて、より深い議論が生まれました。
ステップ2:付箋を貼る
タイムライン上に、重要なマイルストーンを設定し、各参加者が該当する時期の付箋を貼り付けていきました。
このステップでは、できごとについて簡単に説明する時間も設けました。これにより、他のメンバーが知らなかった出来事や、異なる視点での捉え方を共有することができ、プロジェクトの多面的な理解が深まりました。
特に印象的だったのは、書いた人が読み上げることで、「これもあった」「これもあった」と次々と思い出が湧き上がり、付箋がどんどん増えていったことです。この段階で参加者全員の熱量が一気に上がり、ワークショップの雰囲気が大きく変わりました。
ステップ3:グルーピングする
タイムラインに沿って書き出された付箋を、関連性のあるもの同士でまとめる作業を行いました。同じような課題や、同じ時期の出来事、同じチームに関連するものをグループ化することで、プロジェクト全体の課題がより明確になりました。
ステップ4:話を深掘りしたい付箋にシールを貼る
グルーピングされた付箋の中から、さらに詳しく議論したいトピックや課題にシールを貼ることで、優先順位付けや深掘りの対象を明確にしました。このプロセスを通じて、プロジェクトの成功体験や課題、転換点などが視覚的に明確になり、参加者全員が同じ視点でプロジェクトの全体像を把握できるようになりました。
グループディスカッション
タイムラインのふりかえり後、抽出されたトピックを基にグループに分かれ、グループディスカッションを実施しました。各グループには45分間の時間を設け、特定の課題やテーマについて深掘りし、具体的な課題の抽出や次のネクストアクションを導き出すことに注力しました。
ネクストアクションの抽出と優先度決め
グループディスカッションで出された多くのアイデアや課題の中から、最も重要で実行可能な「ネクストアクション」を特定し、その優先順位を決定しました。この段階では、各アクションの実現可能性や影響度を考慮し、チーム全体で合意できる優先順位を設定することができました。
オフサイト自体のふりかえり
今回のオフサイトがどれだけ効果的だったかを評価するため、「ふりかえりのふりかえり」も実施しました。早めに全員がパソコンを閉じて、オフサイトに集中できる環境を作ったことや、福岡という場所を選んだことで普段参加が難しいメンバーも参加できたことが、特に良かった点として挙げられました。長時間の開催にも関わらず、議論が途切れることなく活発に進行できたのは、リモートワークでは実現困難な対面ならではの集中力と一体感の賜物でした。
まとめ
今回のオフサイトは、手数料プロジェクトの現状や課題を整理し、今後のアクションにつなげるだけでなく、チームとしての結束力を高める貴重な機会となりました。スクラムマスターとしてワークショップデザインを担当した経験は、今後のプロジェクト運営にも大きな学びとなりました。
おもな成果:
- 長期プロジェクトの効果的なふりかえり手法(タイムラインふりかえり)の実践
- AIを活用したワークショップデザインの効果検証
- 初回参加者への配慮と心理的安全性の確保による質の高い議論の実現
- 5グラウンドルールを活用したチーム全体の価値観統一
- 対面でのチームビルディングによる信頼関係の強化