メルペイのエンジニアリングへの投資を推進する仕組み

はじめに

こんにちは。メルペイVPoEの@keigowです。
この記事は、Merpay & Mercoin Advent Calendar 2024 の記事です。

昨年のAdvent CalendarでCTOの@kimurasからロードマップを作成する取り組みについての記事(メルカリEngineering Roadmapの作成とその必要性)を出しました。

こちらでも語られているようにエンジニアリング領域への投資を推進するためにロードマップは重要な役割を果たしますが、当時はメルカリのEngineering Roadmapという形で、メルペイについてはまだ作ることができていませんでした。

本日はメルペイでのエンジニアリングへの投資を推進するために、整備してきたEngineering Roadmapや、それを推進するためのEngineering Projectsという取り組みについて書きたいと思います。

ビジネスロードマップとCompany OKR

メルカリグループではミッションの達成に向けて中長期で成し遂げたい目標をグループのロードマップとして定義して、その下に各カンパニーでのビジネスロードマップを定義しています(参考)。ビジネスロードマップはお客さまへの体験の向上や、新しいサービスの提供などを中心に、どのような価値をいつまでに届けていきたいのかという観点で整理されています。

会社の経営という観点ではロードマップをベースに四半期単位でメルペイ全体のOKR(Company OKRと呼ぶ)を設定し、それに紐づける形で配下の組織のOKRを設定していくという流れになっています。

ビジネス目標とエンジニアリング投資の両立の難しさ

Company OKRがビジネス目標を達成するためのものだとすると、どのようにエンジニアリング観点で重要な中長期の投資(アーキテクチャの改善、FinOpsへの投資、Test Automationなど)をスムーズに実現していくか、は非常に重要な課題です。

ここで触れているエンジニアリングへの投資とは、簡単なリファクタリングなどではなく、半年以上の投資を必要とする大きなプロジェクトを想定しています。このような改善への投資は実際にプロダクトを開発するエンジニアの稼働が必要なことも多いため、ビジネス目標を達成するためのエンジニアの稼働とコンフリクトが発生しがちです。

勿論予めCompany OKRの中でエンジニアリングへの投資についても、横に並べて優先順位をつけて実施することができるのが理想だとは思いますが、ビジネス目標の達成とエンジニアリングへの投資に対する優先順位を0/1で判断することは難しいのが現実です。

また、例えばリアーキテクチャなど大きなエンジニアリングへの投資は複数年にまたがるプロジェクトになることも多いため、Company OKRと比較するとそもそもフォーカスするタイムラインが異なることも判断を難しくする要因の一つとなっています。

これまでのメルペイの取り組みとその課題

以前のメルペイではエンジニアリング投資の推進のためのアプローチとして、Company OKRと同様に四半期ごとにEngineering OKRを定義していました。エンジニア組織として重要な課題がフォーカスされて、インシデントの削減など成果を生み出せたものもありましたが、大きく2つの課題がありました。

1つは上述したような優先順位の判断が個々の裁量に委ねられてしまうことが多く、ビジネス上必要な開発を優先することで、Engineering OKRで設定していた目標の進捗を出すことが難しいケースが発生すること。もう1つは前者の課題から、どうしても緊急度の低い(が重要度は高い)エンジニアリング投資の推進は、不確実性が伴うため、OKRという仕組みに求められる厳密なトラッキングに向いていない部分があることです。

Engineering OKRの関係性

投資のバランスとプログラム型組織

メルペイのプロダクト組織は以前記事(メルペイのProgram型組織への移行)にしたように、2022年の10月からプログラム型組織(大きなドメイン毎にプロダクトマネージャーやエンジニアを含めたクロスファンクショナルなチームが複数集まっている)に移行しました。

このプログラム型組織に移行した理由の1つに前者の課題(ビジネス目標とエンジニアリング投資のバランス)の解決がありました。現実問題として会社単位での優先順位を0/1で決めることが難しいようなエンジニアリングへの投資であっても、ドメインやチーム毎の単位で見ると繁閑の波があり、隙間時間を利用したり、プロジェクトの推進方法を工夫することで、エンジニアリングへの投資を生み出す余地も存在します。そのため、判断自体を会社単位で行うのではなく、ドメインごとに分割したプログラムという単位で行えるようにすることで、よりスムーズなエンジニアリング投資の推進が行えるようにしました。

個別のプログラムにはプロダクトに責任を負うProduct Headと、エンジニアリングに責任を負うEngineering Headを置くことで、各プログラムの単位でビジネスへの目標とエンジニアリング投資のバランスの意思決定が行えるようにしています。

また各プログラムで作成するロードマップに対して四半期毎にストラテジーレビューという会議体でCPO、CTO、VPoEによるレビューを行うことで、プライオリティの認識をすり合わせ、推進するためのリソースの調整を行っています。

エンジニアリング投資の推進とEngineering Projects

後者の課題(エンジニアリング投資の推進に対するOKRという仕組みのアンマッチ)に対しては、Engineering OKRを設定するのではなく、2023年7月からEngineering Projectsという仕組みを作り対処をするようにしました。

Engineering Projectsは中長期でエンジニア組織として推進したいリアーキテクチャやFinOpsなどのプロジェクトを四半期ごとに選定し、隔週の定例ミーティングで進捗をトラッキングします。期によって異なりますが、FY2025 2Q(2024年10-12月期)では6つのプロジェクトを選定しています。トラッキングは仕組み上OKRの運用に似ているところもありますが、違いとしてObjectiveなどの設定はなく、中長期に渡るプロジェクトの推進を前提とした仕組みです。中長期の計画をベースに四半期の目標を設定し、隔週で進捗のブロッカーとなりうるものの排除や、必要に応じた進め方の調整などを行えるようにしています。

Engineering ProjectsとProgram OKR

Engineering Roamdapの作成

本来、上図の関係で示したようにEngineering Roadmapがあり、そこから各四半期に実施すべきEngineering Projectsがクリアになっていくべきではあるのですが、メルペイのEngineering Roadmapは今年の6月に作成が完了しました。もともとEngineering Projectsとして定義されていたプロジェクトについては、ある程度ロードマップが明確なものも多かったのでそれらのプロジェクトに対しては改めて取りまとめるという形で整理しました。

それらの取り組みに加え、今後のAI活用の取り組みや、新しい決済プラットフォーム基盤などFoundation領域への取り組みも合わせて作っています。

課題と今後の取り組み

プログラム組織やEngineering Projectsの実施に比べ、Engineering Roadmapについてはまだ出来たばかりであり、運用方法やアップデートの方法についてもまだ手探りの状態になってしまっている部分があります。それでも、これまで可視化しきれていなかった中長期の取り組みを可視化することができ、エンジニアリング組織として取り組むべき課題を明確にできた部分があると思っています。

今後もロードマップの運用練度を高めていきつつ、ビジネスロードマップの実現に貢献するための、エンジニアリング投資の実現方法を模索していきたいと思います。

おわりに

次の記事は@sakabeさんです。引き続きMerpay & Mercoin Advent Calendar 2024をお楽しみください。

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