多国籍メンバーで構成されたメルペイ決済基盤チームが言語の壁を突破するために取り組んだこと

こんにちは。メルペイのPayment Coreチーム Engineering Managerの@abcdefujiです。
この記事は、Merpay Advent Calendar 2023 の13日目の記事です。

ダイバーシティを推進するメルカリグループ

メルカリグループは、ダイバーシティ&インクルージョンに価値を置いており、多様なバックグラウンドを持つメンバーの経験・知識・意見を結集し、一人ひとりがバリューを発揮できる組織を目指しています。
参考: Diversity & Inclusion Statement

今回は私たちPayment Coreチームが、どのように言語の壁を乗り越えダイバーシティ&インクルージョンを推進しやすい環境を作ったかを紹介します。

Payment Coreチームについて

私たちPayment Coreチームの責務は「決済基盤としてプロダクトチームに決済機能を提供し、プロダクト・サービスのミッション達成を実現する」です。
2023年12月時点では、図のようにプロダクトに機能を提供しています。

より詳細に決済基盤について知りたい方は以下の記事を参照してください

そしてPayment Coreチームは、多数の国籍を持つメンバーで構成されており、母国語が日本語でないメンバーが約半数を占めています。この多様なメンバーシップは、私たちのチームの力を高める一方で、日々の開発業務においてもコミュニケーションの課題が出てきました。

高くて厚い言語の壁

PaymentCoreチームでは異なる言語を話す人々が集まった際に、意思疎通を図る際に生じる障壁のことを言語の壁(Language barrier)と呼び、具体的には以下のような問題が発生しました。

言語や文化の違いによるコミュニケーションの課題

異なる国籍を持つメンバーが集まるチームでは、母国語が異なるため、コミュニケーションにおいて言語による壁が生じる可能性があります。それによりお互いの意思疎通が上手くいかないことによる認識の齟齬や、それによるパフォーマンスの低下に繋がる課題が潜在的に存在していました。
また、言語の違いだけではなく、コミュニケーションのスタイルや表現の違いにより意図が正確に伝わらず誤解が生じることもあります。
例えば、日本語のコミュニケーションでは間接的に意見を表現することがあると思います。これは日本語が母国語ではない人にとって意図を正確に理解することが難しくなります。

技術用語や業界特有の言葉の理解の困難

開発業務には特定の技術用語や業界特有の言葉が使用されることがありますが、言語の違いにより、それらの言葉の理解が困難になる可能性があります。特に決済に関連する法律用語や専門用語は代表的な例です。
例えば、決済ドメイン中には「法定帳簿」「資金決済法」「管理会計」「オーソリ」「あと払い」等、英語話者にとって理解が難しい言葉に対して用語が統一されていない場合には、コミュニケーションコストが増大します。英語学習中の日本語話者にとっても同様です。決済の文脈の中で登場する「Payment」「Transaction」「Settlment」「Topup」「Payout」等の用語を正しく区別して理解するのは非常に困難です。

言語の壁に直面して

実際、私もこれらの課題を非常に痛感しました。私はmerpayの英語環境を理解した上で入社しましたが、最初の頃はミーティングでの英語の聞き取りがうまくできず、また、自分の意思を英語で表現することもできずに困ることがありました。当時のスピーキングスキルはほんの簡単な自己紹介がやっとで、非常にチャレンジングな環境でした。

そんな私のような英語学習者を含んだPaymentCoreチームがどのように言語の壁と付き合っているのかを紹介します。

言語の壁との付き合い方

まず、私たちチームでは英語を主体としてコミュニケーションしていますが、ポリシーとして特定の言語をメンバーに強制することはせず、それぞれの言語でもパフォーマンスが出せることを理想としています。
その実現のためにメルカリに存在するさまざまなサポートを活用しながら日々の業務に当たっています。

細かいツールやtipsの話は沢山ありますが、今回は以下の4つを紹介したいと思います。

Global Operation Teamによる通訳・翻訳のサポート

言語の壁の中で最も苦労したのは、リアルタイムのコミュニケーションでした。オンライン会議ツールの字幕機能などもありますが、不慣れなメンバーにとってリスニングとスピーキングは最初の大きな壁でした。それを解決してくれたのはGlobal Operation Team(以下、GOT)です。
メルカリグループにはGOTというチームが存在します。GOTは主に翻訳と通訳の二つの職務を担当してくれているチームであり、私たちのチームは主に通訳でのサポートをしていただいております。GOTのおかげで言語が異なる場合でも会議中のコミュニケーションの橋渡しを実現してくれております。

参考: 言語を活用してメルカリのビジネスやD&Iをサポート!──Global Operations Teamが提供する通訳・翻訳業務以上の価値

Slack上でのコミュニケーションの自動翻訳

リアルタイムではないコミュニケーションだとしても問題は存在していました。Slack上で複数の言語(日本語と英語)でコミュニケーションを行う場合、メンバーによっては都度翻訳ツールを利用する必要があり、コミュニケーションに小さなストレスが生じることがありました。
そのため、私たちはZapierを用いた自動翻訳ツール(JP <-> EN)を導入しました。

Zapierは複数のアプリ(Webアプリケーション)を連携させてワークフローを作り、業務を自動化させることができるツールです。
WebUI上からアカウント連携・ワークフロー作成ができるため、ノンプログラマーでも簡単に使うことができます。
https://zapier.com/

このツールを利用することで、言語を自動的に判定し、翻訳結果をSlackのThreadに投稿することが可能です。これにより、どちらの言語でも気軽に投稿できるようになり、事前に翻訳を用意したり、母国語以外のコミュニケーションへのハードルを下げることができるようになりました。
以下のように自動的に翻訳が投稿されます。

Zapierでは複数のアプリを連携させて作ったワークフローの単位を「Zap」と呼びます。
実際に今回のZapを簡単にご紹介します。

  1. Slackの投稿をトリガーする(図内 1)
  2. 翻訳対象の選別のために投稿のフィルタリングを行う(図内 2,3)
  3. 言語の特定(図内4)
  4. 翻訳(図内 7, 11)
  5. Slackへ投稿(図内 9,13)

まだまだフィルタリング機能が不十分な点等改善点はありますが、現在社内の複数のチャンネルで利用されています。

言語学習プログラム

GOTによる翻訳サポートなど、さまざまなサポートがメルカリグループには存在していますが、メンバー自身の言語スキルが向上しなければパフォーマンスを向上していくことは困難です。メルカリグループでは業務の必要性に応じて言語学習プログラムに参加することができます。私を含めた一部Payment Coreチームメンバーは外部のオンライン英会話練習プログラムや社内の言語学習プログラム(日本語/英語)を受講し、それぞれの言語に対しての習熟度/理解度を高めています。
チーム内のミーティングにおいても週一で日本語でコミュニケーションする日を作る等、日々学習プログラムを通してInputしたものをOutputする機会もチームの中に存在しています。

チームメンバー同士の文化の理解・尊重

異なる国籍を持つメンバー同士がお互いの文化を理解し、尊重することも重要です。
お互いに完璧な英語や日本語を話せるようになることを求めるのではなく、お互いのことを理解するというコミュニケーションの本質を大切にし相手に合わせてコミュニケーションできるように努めることが私たちの考え方です。
例えば、意識的に「英語学習者にとって難しい英語」や「日本語学習者にとって難しい日本語」を使わずにコミュニケーションする事はとても有益な方法です。
参考: やさしいコミュニケーション

Payment Coreチームの成長と変化

上記サポートを活用する事で結果として、Payment Coreチームではいくつか変化が起こりました。

言語習熟度の成長

日々のコミュニケーション + 言語学習プログラムの結果、Payment CoreチームのCEFRの定義(後述)に基づいた言語習熟度が格段に向上しました。
私自身も英語に関してA2レベル(サポートがあれば会話ができる)からB2レベル(自分の仕事に関する会話が支障なくできる)まで向上しました。もちろんペラペラに話せるわけではないですが、簡単な自己紹介が出来る程度のレベルからSlack上、 オンライン、 オフラインの場で普段の業務に関するトピックに関して英語でなんとかコミュニケーションする事ができるレベルまで成長する事ができました。

CEFR定義について(引用元: https://careers.mercari.com/jp/language/

レベル 定義 英語または日本語を使ってできること
Basic (CEFR – A2) – 会話する相手のサポートや、より簡単な言葉への言い換えがあれば、自分の専門分野において、基本的なやりとりができる
– マネージャーと1-on-1ミーティングをする際、相手からサポートしてもらいながらミーティングすることができる
– 相手からサポートしてもらいながら、同僚と1対1で仕事に関する簡単な意見交換や雑談ができる
Independent (CEFR – B2) – 会話する相手からのサポートや、より簡単な言葉への言い換えがほぼなくても、自分の専門分野において複雑な情報のやりとりができる
– 言語がコミュニケーションの妨げになることなく、1-on-1ミーティングができる
– 自分の専門分野において、母語話者を含む複数名での議論に参加することができる
Proficient (CEFR – C1) – 会話する相手からのサポートや、より簡単な言葉への言い換えがなくても、自分の専門分野内外の複雑な情報のやりとりを自立して行うことができる
– 抽象的な話題や不慣れな分野でも、複数名の議論に参加できる

※CEFRに関する詳しい情報はこちら (外部リンク:Council of Europe)

円滑で迅速なコミュニケーション

チームの言語習熟度が向上した事でGOTによる通訳サポートが不要になりました。
これにより、緊急もしくは即席のミーティングを通訳サポートなしで開催できる点がチームのコミュニケーションスピードを向上させる事につながりました。

さらに、同僚と気軽にちょっと話したい時にすぐ会話できる点・自身の言いたいことを表現できる点はチームの雰囲気自体を明るくする事にもつながりました。具体的には、会話中の沈黙はほとんどなくなりました。もし会話がわからなければ、わかる箇所からブレイクダウンしてコミュニケーションしていく方法を多くのメンバーがチームの成長と共に学んでいきました。

また、チーム内だけではなく、チーム外のコミュニケーションとしても英語/日本語を使えるようになる事でチームとしての可能性も広がりました。

メンバーのキャリア創出の可能性

メンバーそれぞれの言語習熟度の向上によって、社内以外での活動にもつながりました。
例えば、一部チームメンバーは海外のカンファレンスに参加し、そこで得たInputをコミュニティで発表する等、活躍の場を広げてくれています。


(GopherCon 2023 in San Diego)

Shunta KomatsuさんによるGoコミュニティへの貢献
https://speakerdeck.com/iamshunta/recap-the-future-of-json-in-go

このように外国語のスキルを磨くことはチームのパフォーマンスを上げるだけではなく、メンバーの将来におけるキャリアの幅を広げていく事にもつながる可能性があると考えています。

変化は簡単には起こらない

このような変化が起こりましたが、もちろん容易にかつ即座に達成したわけではありません。PaymentCoreチームは半年以上もの時間を費やしてきました。そしてまだまだ理想的な環境とは言えない状況です。今後も包括的な環境を構築し続けることが不可欠です。

ダイバーシティの力を活かして

言語の壁は私たちにとって挑戦でありながら、同時に成長の機会でもあります。異なる言語や文化を持つメンバーが集まることで、さまざまなアイデアや視点が生まれ、よりクリエイティブな問題解決が可能になります。

私たちのチームは、言語の壁を乗り越えるための努力を惜しまず、お互いを尊重しながら協力しています。そして、多様なバックグラウンドを活かし、より良いプロダクトを提供するためにこれからも取り組み続けていきます。

明日の記事は @ntkさんです。引き続きお楽しみください。

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