メルカリ Tech Radar の取り組み

こんにちは。メルカリのVP of Engineeringの @motokieeです。この記事は、Mercari Advent Calendar 2024 の12日目の記事です。

1. はじめに

メルカリでは、Tech Radar の取り組みを2024年に開始しました。この記事では、メルカリTech Radar 導入の意図、定義の進め方、運用についてご紹介します。

2. Tech Radar とは

Tech Radar は、企業が技術選定を効率的に行うためのフレームワークです。元々ThoughtWorks社が作成し、採用する技術のガイドラインとして用いられています。Tech Radar は、技術がどの段階にあるかを評価し、採用すべきか (Adopt)、試行すべきか (Trial)、評価途中であるか (Assess)、あるいは非推奨か (Hold) を示しています。

ThoughtWorks について

ThoughtWorks は、技術コンサルティングとソフトウェア開発を専門とするグローバル企業で、Tech Radar を始めとする革新的なアイデアを業界に提供してきました。そのためTech Radar は、企業が技術的な選択をする際の考え方として世界的に知られています。

構成要素の説明

Tech Radar は通常、以下の4つの項目で構成されています。

  • Adopt(採用): 十分に成熟し、すぐにでも採用する価値がある技術。
  • Trial(試行): 有望で特定のプロジェクトで試行すべき技術。
  • Assess(評価): 更なる調査と検証が必要な技術。
  • Hold(非推奨): 現時点では推奨しない技術。

3. メルカリの Tech Radar について

なぜ始めたか

メルカリでは、これまでフリマ事業をはじめ多くの新規事業にチャレンジしてきており、同時に新たな技術への挑戦も続けています。数多くの新しいことにチャレンジできた一方でメンテナンス等での課題も発生してきました。

ご経験のある方もいると思いますが、新しい技術を採用したもののメンテナンスが特定の人に委ねられてしまうケースはよくあると思います。特定の人がチームにいる間は開発生産性が高い状態を維持できるのですが、その人が異動や退職をしてチームからいなくなってしまうと、チームからナレッジがなくなりトラブルシューティングやメンテナンスが困難になってしまいます。

こういったトラブルシューティングやメンテナンスは、できる限り Platform Engineering でカバーしていきたいと考えています。しかし、メルカリではエンジニアの大多数は Product Engineering に所属し、Platform Engineering 所属のエンジニアの割合は低いです。そのため、Platform Engineering で無制限にメンテナンスなどを引き受けることはできず、一定の選択が必要となります。

「An Elegant Puzzle: Systems of Engineering Management」や「Staff Engineer: Leadership beyond the management track」などの書籍を執筆した Will Larson さんのブログポストの Magnitudes of exploration を参照してみましょう。

冒頭にサマリとして “Mostly standardize, exploration should drive order of magnitude improvement, and limit concurrent explorations.” と書かれています。日本語訳をすると「主に標準化し、探索は桁違いの改善を促進すべきであり、同時に行う探索を制限する」となります。

意図して選択を行い、限られた持ち物を磨き込み、生産性を劇的に改善し得るものに絞って新しい取り組みを行うことであると解釈しています。Less is More に通ずる考え方で、Tech Radar は過去の取り組みの蓄積でありその証跡となる役割を持っていて、新しい取り組みを始める際の羅針盤となってほしいと考えています。

Tech Radar を導入し活用することで、スピード感をもって一貫性のある技術選定できるようになることを目指しています。

どのように定義したか

メルカリのニーズや定義のしやすさに合わせて定義をカスタマイズしています。例えば、 メルカリ Tech Radar は Backend/Platform、 Mobile、 Web の3つのカテゴリに分かれています。この3つの領域に境界を分けて作業を進めるのが効率が良かったためです。

管理には原始的ですがスプレッドシートを利用しています。以下の図は Mobile 領域の languages-and-frameworks の Tech Radar に記載されている内容です。

現在使っている技術すべてに Architecture Decision Records (ADR) のような証跡があるわけではないので、実体としてどのように運用されているかをベースに Adopt などの定義を行いました。

なかには「会社として推奨を続けるべきか」曖昧なものもあり、ADR を作成し議論を行って曖昧な状態を解消したものもあります。

メルカリ Tech Radar で定義したものの大枠は https://engineering.mercari.com/technology-stack/ に反映されています。Adopt / Trial / Assess / Hold などの詳細な定義について現在外部公開する予定はないのですが、Hold \= つまり会社ですでに使うことを推奨していないものは含まれていません。

運用について

Tech Radar は定期的に見直しを行い、最新の技術トレンドと社内のニーズに応じて更新していく必要があります。メルカリでは今年から運用を始めたため2025年に見直す予定で、年次の棚卸しのような行事にできると良いと考えています。

Tech Radar 自体の管理に多くの時間は使っていませんが、 Hold になっている、つまり非推奨のアイテムがどのような状態なのかはトラッキングを行っています。特に、非推奨である理由としてサービスのクローズなどの時間的制約があるものについては注意して関係するチームにマイグレーションのリマインドを行ったりしています。

4. おわりに

メルカリでの Tech Radar の取り組みについて紹介しましたが、まだ始めたばかりのためこれから課題はまだまだ出てくると思います。

技術標準の設定を行うような制約を設ける取り組みでは「新しいことができなくなってしまう」という意見も出てきますが、Tech Radar に書かれているものしか使えない・使ってはいけないという状況もメルカリらしくないと考えています。

先ほど紹介した「主に標準化し、探索は桁違いの改善を促進すべきであり、同時に行う探索を制限する」が良い指針になると思っており、どの程度の割合で探索を行っていくかを考えることもこれからの宿題だと考えています。

メルカリとして蓄積してきた数々のナレッジや技術的な取り組みを最大限活用してほしい、見過ごしてほしくないと考えています。Tech Radar はメルカリのエンジニアリングとして何に投資をし全体最適化を行っていくかの判断のベースとなるものだと考えています。

Tech Radar で技術スタックの定義されているいくつかの領域では、選択的集中を行うことで、人や時間をより適切に投資することができ始めています。主にはツールの自動化で、開発スピードとエンジニアの満足度を向上させ、事業の Enable に成功しています。

Tech Radar に Adopt と定義されているものは、会社として継続的改善を行うという意思表明だと考えて運用していきたいと考えています。

以上、メルカリ Tech Radar の取り組みについてのご紹介でした。

明日の記事は iso さんです。引き続きお楽しみください。

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