Merpay & Mercoin Tech Fest 2023 は、事業との関わりから技術への興味を深め、プロダクトやサービスを支えるエンジニアリングを知ることができるお祭りで、2023年8月22日(火)からの3日間、開催しました。セッションでは、事業を支える組織・技術・課題などへの試行錯誤やアプローチを紹介していきました。
この記事は、「日本におけるお客さま本人確認と今後の技術的課題」の書き起こしです。
@tim:みなさん、こんにちは。このセッションでは、「日本におけるお客さま本人確認と今後の技術的課題」についてお話しします。
@tim:Tim Tosiです。私はフランス、イギリス、そして日本で仕事をしてきました。フランスのパリ出身です。私はメルペイに入社する前、いろんな業界を経験し2020年の1月にメルペイに入社しました。KYCチームのバックエンドエンジニアから始まり、2021年3月からはKYCチームのEMをしています。
@mann:こんにちは。Manpreetと申します。私はバックエンドのソフトウェアエンジニアとしてメルペイに勤めています。
元々はインドでキャリアをスタートし、銀行、通信、eコマースでの経験があります。2019年頭に日本に引っ越しました。2021年10月にメルペイに入社し、KYCチームのバックエンドエンジニアとして勤めています。
@chris:みなさん、こんにちは。Christopheと申します。私は2014年に来日しました。最初は通信、ビッグデータに勤めて、2021年にメルペイに入社し、KYCのテックリードとしてバックエンドエンジニアをしています。
@chris:まずは、eKYC関連の法律が出る前に、日本での本人確認がどのように行われてきたかお話しします。
eKYCへの前に知られていたのが、本人確認法です。これは2008年に犯罪収益移転防止法に変わりました。引き続き、組織犯罪処罰法、麻薬特例法が今でも継続しています。簡単に最初の法律だけに焦点を当てて話をします。
まず、再犯罪防止という意味で、条約に基づきFATFがプロセスを制定したもので、口座開設時、大口取引時の本人確認の実施などが義務付けられています。
2001年にFATFはテロ資金供与に関する特別勧告を発表し、2006年末までに1000米ドルまたは1000ユーロを超える現金供与の本人確認を義務付けるように求めました。これを受けて日本では10万円を超える現金供与における本人確認を義務付ける条文を追加し、2007年1月4日に発効しました。
日本では、2000年代に入ってから、携帯電話や電子メールを利用して詐欺行為を行う架空請求詐欺や特殊詐欺が社会問題化しており、これらの犯罪で騙し取った金銭を安全に受け取る手段として架空口座を利用することがあります。この法律の目的は金融機関と取引する際にお客さまの身元を確認することで、偽名・なりすまし取引による資金獲得を防止することです。
より具体的に、どういうときにお客さまを特定すべきかというと、三つの要素があります。
まず一つ目は、金融機関と取引を開始するときです。例えば口座開設や信託取引の締結、保険契約の締結をする際です。二つ目は、10万円以上の取引がある場合、三つ目は、トラベラーチェックなどで200万円を超える場合です。
本人確認方法は、個人の場合、氏名・住所・生年月日が必要です。保険証や運転免許証、外国人在留カードを使うことが多くなっています。次に法人の場合、担当者は本人確認に加えて会社名と事務所の所在地が記載された証明書を提出する必要があります。
これらの情報を提供するとトランザクションが行われますが、本人確認が一度済めばこういった確認を提供する必要はありません。証明するためには金融機関の担当者に直接身分証明書を提示したり、パスワードや本人しか知らない情報を提供したりします。とはいえ、詐欺やなりすましの疑いがある場合、本人確認のプロセスを全てやり直す必要があります。
本人確認が行われた場合、取引時確認記録を作成し、金融機関が7年間保管しなければなりません。本人確認の要求にお客さまが応じない場合、金融機関が取引を行わないことを免除されます。
残念ながら、いくつか起きた問題をご紹介します。
最初に「学費」です。日本では大学入学金が10万円を超えることは珍しくありません。この法律が施行されたときTVや窓口には「指定された期日に納付するために、適切な身分証明書を持参するように」という注意書きが貼られました。
次が、預金詐欺です。例えば、お金を盗まれた原告が、「金融機関が適切な本人確認を行わなかった」と主張した訴訟があります。ですが裁判所はこの法律はマネーロンダリングを防止するものであり、預金詐欺を防止するためではないことから、金融機関は本人確認を進める必要はなかったと判断しました。
最後に、個人情報の収集です。この法律は、金融機関にしか適用しません。無関係の企業がこの法律を利用して、個人情報収集の目的でお客さまに個人情報を尋ねることがあります。また、勤務先や親族に関する情報など、無関係の情報を尋ねることで、さらに踏み込んだ情報を得ることもあります。
最終的にこの法律は2008年3月1日に廃止され、代わりに犯罪による収益の移転防止に関する法律が制定されました。
@mann:次のトピックはeKYCについてです。
eKYCとは、オンラインで本人確認を行う方法です。これまでとは異なり、お客さま自身が個人情報と身分証明書をシステムにアップロードします。
ここからは、特に日本におけるKYCにおける出来事をいくつか振り返ります。
1988年12月に麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約が採択され、1989年7月に金融活動作業部会(FATF)が設立されました。これによってFATFと日本の総合評価において、日本では1992年7月に麻薬特例法、そして2000年2月に組織的犯罪処罰法、2003年1月に本人確認法が施行され、お客さまの本人確認と取引時確認記録の保存の義務が課せられました。
2007年3月に犯罪による収益の移転防止に関する法律が成立し、改正顧客識別法と組織的犯罪処罰法の一部という二つの法律に基づいて作られました。その後法改正が繰り返され、2018年には犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の改正が行われました。
Fintechと相性の良い効率的な本人確認方法をいくつか挙げて、オンラインKYCを実現し、今日のKYCとeKYC対策を形作りました。
それを元に、なぜKYCを行うのか、なぜメルカリグループにKYCという部門があるのかについてご紹介をします。
本人確認は、犯罪収益移転防止法に準拠して実施されています。特定事業者が提供するソフトウェアにより、氏名、住所、生年月日、顔写真などを確認したり、書類の厚みを判別して改ざんされていないことを確認したりするなど、本人確認を目的とした画像データの利用が規定されました。
また、お客さまの利用目的や職業も確認しています。特に、特定事業者は取引時確認記録を作成し7年間保存しなくてはなりません。お客さまとの取引の中に疑わしい取引があれば規制当局に報告をする必要があります。
現在のAML(アンチマネーロンダリング)の体制は、この四つの目標を達成することにフォーカスしています。まず一つ目は、犯罪収益移転防止法の外為法に対応されており、2と3は主に組織的犯罪処罰法と麻薬特例法で対応してます。四つ目については、脅迫罪処罰法で対応し、外為法、国際テロリスト資産凍結法で対応しています。
これらの法律に加えて、金融情報センターで提供されるガイドラインでも対応していますし、AMLやCDD(Customer Due Diligence)について法令を遵守した運用を行うためのガイドラインも作られています。
ここではいくつか提供されているガイドラインについて紹介します。お客さまは本人確認を実施するときに、その場で写真撮影をし、偽造されていない画像データを提出する必要があります。
ここで受け入れられている身分証明書は、運転免許証やマイナンバーカード、在留カードなどです。
上のグラフのパーセンテージは昨年の割合で、eKYCの方法として45%のお客さまは運転免許証を選択しています。
身分証明書の正当性を確認するために、ガイドラインではドキュメントの厚さの確認をしています。例えば、写真を撮るときに傾けてもらうなどの方法をとっています。ライブネスチェックでは、お客さまにランダムなポーズを取ってもらっています。
最後に、本人確認書類の厚みなどを目視で確認します。改めて強調していきますが、特定事業者はお客さまの氏名、住所、生年月日、利用目的、職業を確認することが義務づけられています。
まずお客さまは在留カードやパスポートなど、書類のタイプを選択します。そして、お客さまが書類の画像データを提出します。書類の正当性が確認されます。そして、有効性チェックのためにお客さまはランダムなポーズを要求されます。お客さまは氏名、生年月日などの個人情報を入力します。そしてeKYCが提出され、合否が反映されるまで、通常約1週間かかります。
ICチップを使用するeKYCは、オンラインで本人確認を行います。これがまた別の方法となります。この方法では、ICチップに搭載されるデータを使用します。関連当局とお客さまの身元を確認しICチップを読み取ります。
メルカリでは、マイナンバーカードを利用しています。ICチップを読み取って、JPKIという公的個人認証サービスで電子署名を行っていきます。そして認証を行います。
金融庁のガイドラインによれば、在留期間のある外国人のお客さまについては、リスクに応じたCDD、eKYCを行う必要があります。口座が売買されていたり犯罪に利用されているおそれがあるからです。滞在期間の延長がこれ以上確認できない場合には、利用制限をかけるなど、適切なリスク対策を講じる必要があります。
外国人は、在留カードなどを使うことができます。また、氏名、住所などの基本情報に加えて、国籍、ビザの種類、在留期間を記入する必要があります。
@tim:メルペイのKYCチームは、ほとんどが外国人メンバーで構成されていますので、ネガティブな印象を持ちました。
実は新しい措置に関する潜在的な問題は、eKYCの受け止め方によって変わってきます。SNSを見てみるとネガティブに受け止めているのは、私たちだけではないようです。必ずしも不正対策そのものが問題ではなく、対策が新たに追加されることは、ほとんどの場合、お客さまの手間が増えることとなります。
政府機関も日本の企業も新たな詐欺対策を決定する際に、このことを念頭に置くということが重要です。
もう一つ私たちが強く考慮しなければならないのは、新しい脅威です。しばらく前からある強力な脅威の一つがディープフェイクテクノロジーです。これは、機械学習や人工知能のアルゴリズムを使って、写真、動画、音声トラックなどのメディアを操作し、人物をすり替えることです。
技術的なことについて私は専門外なので、このトピックに深く踏み込むことは避けたいと思っています。ただ、興味ある方々は調べていただければと思います。
私たちの申請記録であるビデオなどの資料は、身元確認に合格した人物が使用され、身元確認書類の使用者であることを確認するために手作業でチェックされます。
しかし、人間がディープフェイクを判定するのは、実際にはかなり難しいです。現在の法律で日本で期待されている本人確認に関しては本当の脅威となる技術が登場していることになります。日本がこの現実に合わせて規制を更新する必要があります。
特に反社会的勢力に関するヒントを与えたくないので、実際に話せないことがたくさんあります。十分に曖昧なままとなりますけれども、私たちは、2021年にこの問題の調査をパートナーである日本の大学とメルカリR4Dチームで共同チームを設立しました。
ディープフェイク技術が社内の本人確認フローを通過する可能性を調査しています。
社内の本人確認システムだけではなく、複数の方法で反社会的勢力と戦っています。
また、お客さまの行動を監視したり、アプリケーションの使用におけるパターンを検討することを行っています。
最近、マイナンバーカードに関するニュースを目にすることが多いかもしれません。マイナンバーカードに関わる法律の一部を改正することになりました。行政手続における特定の個人を識別するための番号として利用されることになります。(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案)
これに続く社会の基本的なデジタル化を進めて、多くの行政の業務をオンラインで行えるようにすることが公式のスタンスとなっています。
改正のポイントは2つあります。まず、いくつかの身分証明書がマイナンバーカードに統合されることです。例えば健康保険証がマイナンバーカードに統合されることです。近い将来、eKYCを実施するための書類が減るということです。
業界にとって最大のインパクトは、将来お客さまがeKYCに使用できる書類がマイナンバーカードだけになることを政府が後押ししているということになります。ICチップの中に含まれているお客さまの個人情報を確認するため、手作業による身元確認をやめ、システムとマイナンバーカードの埋め込み署名を信頼するということで、ディープフェイクの影響を減らすことができます。
二つ目として、お客さまは手動で情報を入力する必要がないため、ユーザーエクスペリエンスが大幅に向上します。Fintech製品への登録中に、ミスを減らすことができます。
マイナンバーカードICチップを通じたeKYCの本人確認フローは、即座に完了します。お客さまが登録時に待つ必要もありません。eKYCはマイナンバーカードに埋め込まれたICチップを通じてのみ実行することを認めるかどうかは、現在では不明です。
私たちは、政府がこの方法をとることを望んでいます。マイナンバーを本人確認に利用することで、安全性とユーザーエクスペリエンスの両方が向上することは明らかであるにもかかわらず、多くの人々がこのような状況でマイナンバーを利用することに消極的です。
業界として私たちはお客さまに対してなぜ私たちの製品のやり方を変えるのか、法律の改正が業界の絶え間ない変化・進化に適用する必要性をどのように生み出すのかを説明する際に、もっとうまくやる必要があります。変化は必ずしもネガティブなものではありません。
とはいえ、あまりにも早い変化は複雑な問題を引き起こすことになります。最近、マイナンバーに関する複数の問題が報道されています。デジタル庁は、2016年1月に、国民が行政へ給付を受けられるようにするために、マイナンバーカードの銀行口座への登録受付を開始しました。
2021年10月から2023年5月にかけて、いくつかの問題が起きました。まずコンビニで住民票を取得しようとしたら、不適切な住民票が発行されたという問題がありました。
その後、一部の健康保険情報が本人ではなく、別の人に紐付けされたこともありました。
2023年5月、日本デジタル振興センターは、マイナンバーに紐付けられた銀行口座情報が他のものとなっていることがわかりました。
この問題は、手入力が問題であり、マイナンバー制度そのものに起因するものではないと覚えておく必要があります。マイナンバーカードが良い選択肢ではないのではなく、日本の本人確認手続きが誰にとってもより安全・簡単にこなせるようにすることが必要です。
私の見解ではいくつかのプロセス改善が必要で、マイナンバー制度は業界にとって非常にいい選択肢だと思います。
このプレゼンテーションは以上です。ID認証のイノベーションを望む全ての人の安全を守りたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。