この記事は、Merpay Tech Openness Month 2023 の5日目の記事です。
はじめに
メルカリ技術書典部の knsh14 です。
6月4日まで行われていた技術書典14に参加しました。
技術書典14は5/21にオフライン開催を行いました。
株式会社メルカリは、Goldスポンサーとしてイベントを支援させていただいており、スポンサーブースを割り当てていただきました。そこで、このブースではメルカリ技術書典部から「Unleash Mercari Tech!」という書籍をみんなで執筆し販売しました。
自分は編集長として本の制作に携わったので、当日までどのような作業があったか紹介します。
本を作る
Slack を振り返ると、自分が編集長に立候補したのは 3/13 でした。
オフラインイベント当日から逆算すると、2ヶ月ほど活動時間がありました。立候補しプロジェクトを始めるタイミングとしては早めで良かったと思います。
なぜ自分が立候補したのか詳細は覚えていませんが、おそらく雑談している中でそそのかされたんだと思います。
せっかくスポンサーブースに出展できるのなら、物理本(印刷した紙の書籍)を作るぞ!と決めました。
前準備
本の制作に着手する前に事前準備をします。
この時点で必要なものは次の3つです。
- 本の制作に関わる人がやり取りするためのチャットチャンネル
- 書籍を作成するリポジトリ
- 全体のスケジュールをカレンダーに登録する
立候補してからすぐにこの3つの事前準備を済ませると自分の退路を断てるので有効です。
今回の自分は3番目の全体スケジュールをカレンダーに登録する作業をやらなかったので、スケジュール管理が疎かになってしまいました。
チャットチャンネル
本の制作をするためには、編集長とコンテンツを制作する方々とのやりとりをする場所が必要です。
会社の Slack や、Discord など都合が良いツールを使いましょう。
後述のリポジトリで制作状況を管理したり、レビューしたりするので、GitHub と連携できるサービスが好ましいです。
メルカリの標準のコミュニケーションツールはSlackなので、今回もSlackを使っています。
リポジトリ
書籍のデータを管理するためのリポジトリが必要です。
リポジトリ、適切なディレクトリ構成、成果物を確認するためのスクリプトなどを 0 から準備するのは大変なので、TechBooster が公開しているテンプレートリポジトリTechBooster/ReVIEW-Template を使って作成します。
Slackなどのチャットツールを使っている場合、アプリで連携してコミットが push されたり、 PR が作られたり、レビューがつけられたりするとチャンネルにポストされるようにしておくと、進捗が見えやすくなって良いです。
執筆者を集める
本を制作するための箱が出来上がったので、技術書典部の一員として記事を書く人を集めます。
この仕事が編集長としての最初の大仕事です。
最初に考えたのはどんな人に書いてもらうかです。
今回は会社のプロダクトとして最近の大きなリリースであるメルコインに関連した話はエンジニアの読者なら興味があるかなと思いました。また、メルペイからは昨年メルカードをリリースしています。この2つのプロジェクトからできるだけ書いてもらえる人を集められるように働きかけました。
呼びかける方法にスマートな方法はありません。プロジェクトの開発チャンネルに突撃し、書いてください!とお願いするのみです。
テックリード(TL)やエンジニアリングマネージャ(EM)に相談し、面白そうなネタを持ってる方を推薦してもらったり、社内勉強会のGo Fridayなどによく顔を出してる方に問い合わせたり、過去自分と一緒のプロジェクトにいた方に聞いてみたりと、とにかく「久しぶりに書いてみるかあ」と思ってくれる人を探します。
また、ちょうどよく大勢のエンジニアの前でライトニングトーク(LT)をする機会があったので、技術書典部に参加する方を募集しています!というLTをしてきました。
LT では次のことを説明し、参加へのハードルを下げられるようにしました。
今まで書いたことがない人にこそ勧めたい。みんなで書きあえば一人の記事は短くても全体でちょっと分厚い本にできる
ネタがすぐに思いつかなくてもOK。編集長がめちゃくちゃ協力します!
書く文章量は大体技術ブログ1記事分程度あれば十分。過去の参加者を見てもそれくらいでちょうどよい
今回は十分人も集まったので良かったのですが、全社の開発チャンネルでもっと宣伝したり、各チームの EM に手伝ってもらったりして人を集める必要があったかもしれません。
ここまでで書いてもらう人数の想定は特にしていません。
物理本のページ数、1記事の長さなどから大体の必要な人数は割り出せます。しかし集まった人数ピッタリで打ち切ってしまうと、業務都合で断念する方が出たり、
思ったより記事が短かったりして予定した分量を下回ってしまう懸念がありました。足りなくなるよりはたくさん書いてもらって溢れたら分冊すればいいか…と思ったので人数上限は設けずにできるだけ人を集めようと思いました。
ありがたいことにメルペイ、メルコインのメンバーは技術発信に興味がある方、お願いします!と頼んだら書いてくれる方が多かったので、ギリギリのラインを攻めずにすみました。
人集めはできるなら編集長になった日から着手したほうが良いです。
早く書き始めて貰えれば、それだけ毎日少ない苦労で書き上げることができるので、書いてもらえる方に時間を残せるようにしましょう。
コンテンツを作ってもらう
リポジトリもでき、執筆者も集まったのでここからは本格的に制作していきます。
内容を決める
参加してくれる方がどんな記事を書くかを決めていきます。
自分でどういう記事を書くか既に決まっている人はそれが機密情報が含まれていたり、公序良俗に反していなければ特に問題にはなりません。ダメそうならコミュニケーションして別のネタにしてもらう必要があります。
一方、決まらない人がいる場合は編集長の出番です。30分程度1on1で雑談しながら次のことを聞いてみて面白そうなネタを探します。
- 最近やった仕事
- プロジェクトの概要
- 解決したい問題
- 難しかったところ
- 最近気になっている技術
- エディタ
- 気になるライブラリ
- 便利ツール
1on1 で話してみると、意外と2〜3個くらいのネタがでてくるので、それで書こうと決めました。
もしそれでも見つからなかったらマネージャーに聞いてみて、頑張ってたことなどを聞いてそれを書いてもらうという作戦も考えていました。
締切を決める
編集長の大事な仕事に、締切を決めて守っていくことがあります。
締切の目安は物理本か電子本かでも異なりますし、オンライン参加かオフライン参加かも影響しますが、今回は物理本の締切を考えます。
21日前 – 執筆者候補が全員参加表明をしている
14日前 – 執筆者全員の記事の目次くらいが完成している
10日前 – 技術的なレビューが終わる
8日前 – 執筆者の修正が終わる
7日前 – 編集長が全体をチェックする
6日前 – 最終稿が完成し、印刷所に送る
イベント当日 – イベント会場に届いた本を検品し、販売する
これくらいのスケジュールで制作を進めていきました。
6日前の印刷所に送る日付だけは絶対に死守しなければいけません。遅れると、特急料金を支払う必要があるので、負担をかけないように頑張る必要があります。
また、その前日には編集長が全体をチェックし修正する時間が必要です。ここで細かく変更が入ってしまうとチェックをやり直しになるので、編集長以外が編集できないようにする必要があります。
今回はGWがあり、執筆者にはそこで追い上げるチャンスがあったので、このようなスケジュールになりましたが、大型連休がない場合はもっと前に執筆表明をしてもらい、時間を確保してもらう必要があります。
この2つの締め切りを守るために本当のやばい締切、目安の締切を執筆者に提示し、うまくコントロールしていける編集長はかなりハイレベルな編集長です。
自分は今回この締切が自分でも曖昧なまま進んでしまい、vvakame さん、 mhidaka さんに突っつかれながら進めてしまったので、執筆者にも急に締め切りを設定して色々直してもらい迷惑をかけてしまいました。
次回は前準備の段階ですべての予定をカレンダーに入れてきちんと今何をすべきか把握すること、週に一回など定期的に進捗を把握することが必要だなと思います。普段の仕事とまったく同じですね。
リマインドする
前述のスケジュールを守るために、執筆者に定期的にリマインドを送る必要があります。
次のようなリマインドを順に執筆者、あるいは執筆者候補に送ります。
- 参加表明してくれましたか?
- ネタは決まりましたか?
- 記事の Pull Request は作ってくれましたか?
- 記事はいったんレビューできる状態になりましたか?
- いったん直さないとやばいものは直しましたか?
これらを目安の締切、絶対に守る締切を意識しつつ、心理的安全性を損なわないように送っていきます。ここで如何にいいタイミングで送れるかが編集長の腕の見せ所ですが、自分は結構下手くそでした。プロジェクト管理の手法を勉強すると上達できる気がします。
レビューする
執筆者の方たちが頑張って書いてくれた記事をレビューします。
自分は記事の最初の読者として、読む中で文章が分かりづらいところ、前後関係がわかりにくいところなどを探してレビューしていきました。
技術的な面は自分も使っている技術については多少コメントできたのですが、暗号資産に関連する記事では自分はまったくわからないので、詳しい方にお願いしてレビューしてもらいました。
他人の書いた文章をレビューするのは難しいですが、次の動画や記事から良い文章はどんな文章なのか、読みやすく書くためにはどう書くべきかをある程度把握してから、自分がこのテーマで書くならどうすればよいか考えながらやってみると良さそうです。
- merpay Tech Talk \~伝わる技術文書の書き方\~
- LINE Technical Writing Meetup
- 技術的な文章を書くための第0歩 ~読者に伝わる書き方~
- 技術的な文章を書くための1歩、2歩、3歩
自分がレビューした後、 vvakame さんも忙しい中レビューしてくれました。
自分だけだと心もとなかったのですが、 vvakame さんは自分より文章を書いたりレビューする経験が豊富なので、よりよい視点からレビューしてくれて自分も勉強になりました。
もし時間があるなら、執筆者どうしで互いの記事をレビューすると、より多くの視点からのレビューができ、全体のクオリティを上げることができそうです。
表紙を描いてもらう
本には表紙が必要です。表紙は文字通り本の顔なので、本職の方にお願いしました。
今回は弊社のデザイナーの tottie さんにお願いしました。
tottie さんは同人誌ノウハウをよくご存じなので、いろんな部分を先回りしてやってくださったのですが、依頼するときには次のことをわかった上で依頼するとスムーズに進みます。
- 納期
- 表紙のイメージ
- 本のタイトル、著者名
- 表紙
- 表紙だけなのか、裏表紙も欲しいのか
- サイズ
- A4 なのか B5 なのか
- 形式
- 印刷所用の形式と、電子版の形式
- 印刷用ならpsd ファイル
- 電子版なら、png 形式
- どこの印刷所に依頼するか既に決まっているなら共有するとデザイナーさんが気になることを確認できる
- トンボいる?いらない?
- 印刷の場合、印刷用の形式(トンボなど)を作成する必要がある
また、物理本にする場合は、背表紙の調整を考える必要があります。
(本文のページ数+表紙のページ数)× 0.063mm の厚みを本の背として確保します。0.063mm は今回使用した紙の厚さです。別の種類の紙を使う場合は再度確認し、修正する必要があります。
これを表紙と裏表紙の間にこの厚みを追加してもらうことで、きれいな背表紙になります。
最終的にこのような素敵な表紙ができあがりました!
本にする
本を作るために必要な要素は揃ったので、全体をまとめ上げて印刷所に入稿するためのデータを作ります。
これに着手するのは印刷所に送る直前1日程度です。あまり前すぎると記事を修正したいこともあるので、執筆者に厳しくなりますが、遅すぎても自分の作業時間が取れないので、短すぎないようにします。
編集長の仕事の中で一番大変な仕事です。
ここでの作業の成果物は印刷所に送るためのデータを作成することです。
今回僕らは日光企画さんに印刷してもらったので、必要なデータは表紙用の psd ファイルと、中身の pdf ファイルの2つです。
表紙の psd ファイルは「表紙を描いてもらう」でも書いたとおり、背表紙の幅を調整したものを送ります。
中身については出来上がったものを読んで、おかしい部分を見て修正する作業を繰り返します。
テンプレートリポジトリhttps://github.com/TechBooster/ReVIEW-Templateから作業リポジトリを作成した場合、pdf はリポジトリの GitHub Actions により生成されてダウンロードすることができます。そこからダウンロードして確認します。
確認する項目は次のとおりです。
- 書いてもらった記事が全部載っているか
- 誤字脱字がないか
- 表示崩れがないか
- 数式などが崩れていないか
- コードブロックが崩れていないか
- URLが長すぎて表示が崩れていないか
確認作業をするときに過去に参加したときの本とリポジトリのセットがあると修正作業がとても楽になります。
このタイミングで、記事の順番も編集長が決めます。
今回は記事の Pull Request を作った順番で並べたのですが、見本誌を手にとって眺めてもらったときに興味を持ってもらえそうな内容を先に持ってくると良かったかもしれません。
また目次の章に記事を書いた人の名前も入れると見本誌でパラパラっと目次を見たときに誰が書いたのか分かりやすくてより興味を持ちやすかったかもしれません。
本を売る
本が出来上がったので、オフラインイベント当日に本を売りまくります。
それに向けてもいくつか準備をします。
売値を決める
当日販売する本の値段を決めます。1,000円刻みで設定しておくと、当日現金で支払われる方にも対応しやすくなります。
事前にお釣り用の現金を準備しておく必要があります。
当日のための準備をする
メルカリ技術書典部は株式会社メルカリのスポンサーブースで本を販売しました。
あくまでスポンサーブースなので、会社の広報チームと連携し、本を売るだけでなくノベルティを配るなど採用広報活動にも参加する必要があります。
広報チームと事前に相談することで、会社の備品を使わせてもらうことができ、一気に売れそうなブースになりました。
厳密には編集長の仕事ではないですが、積極的に関わって作った本を1冊でも届くようにしましょう。
当日株式会社メルカリではスポンサー担当、編集長、Talent Acquisition team のメンバー、そして執筆者のうち当日参加できた方で参加しました。
販促グッズの準備
当日本を売るための販促グッズを用意します。
オフラインではとにかく会場にいる方たちの目にとまるように販促グッズを用意しました。
mhidaka さんのアドバイスで、A3 サイズの表紙、販売中をアピールできるグッズを準備しました。
A3 サイズの表紙はたまたまオフィスにラミネート加工できる機械があったので、補強して持ち運びやすくしました。
他にもアピールグッズとして推し活に使われる蛍光色で大きめのうちわを買ってきて会社のシールなどを貼ると遠くからでも目立って良かったです。
販促については同人誌を売るテクニックとして色んなところで紹介されていると思うので、1冊でも多く手に取ってもらうために、事前に調べて試してみる価値はありそうです。
当日
オフラインイベント当日はサークル参加の集合時間に遅れないように会場にいきます。
依頼した物理本の印刷がされて、会場の自分たちのブースに納品されているはずなので、発注した冊数があってるか、いくつかピックアップして乱丁や落丁がないか調べます。
2〜3冊は見本誌として、立ち読みしてもらうために目印を付けておきましょう。
本がちゃんとそろっていて、乱丁や落丁もなければ後は皆さんに届けるのみです。
恥ずかしがらずに勇気を出して、来場者に声をかけて見本誌を読んでもらいながらこの本がいかにすばらしいかを売り込みましょう。
後処理
技術書典14最終日の6/4でのクロージングイベントにも出演しました。
このイベントでは最後に少しでも興味を持ってもらえるように、オフラインイベントで興味を持ってもらえた記事や、執筆に興味を持たれた方の背中を押す方法、株式会社メルカリでの働き方などいろいろお話させていただきました。
後から印刷を行う予定ならここから入稿作業が必要ですが、今回僕らはやらなかったので、僕は作業しませんでした。
この作業はイベントが終わった開放感から忘れそうなので、最後まで気を抜かずに対応しましょう。
次回参加にむけて
今回は初めて編集長として技術書典に参加しました。次回に向けて書籍作成をするときに確認するべきことはこんなことです。
- 今日からイベント当日までの全体の締め切りの理解
- 入稿する締め切り
- 執筆完了の締め切り
- 最初のバージョンを書き上げる締め切り
- 製本に必要な要素の理解
- 執筆者の募集
- 表紙の依頼
- 入稿データの作成
- 当日の確認
- 当日の宣伝
この他にも YouTube 技術書典チャンネル でも様々な情報を公開しているので、事前に過去の放送分を確認してみると良さそうです。
今回はなんとか人も集まって色々な締め切りにも間に合い素敵な本を出すことができましたが、反省点も多かったので、次に活かせればと思います。